虚血性J波

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ラムダ波を示した急性心臓死

 目次

1 心筋虚血とJ波との関連を支持する事象(この頁の下部にに記載)
2 ラムダ波を示して急性心臓死した例
3 J波の諸相(虚血性J波の波形)
4 急性心筋傷害時の心電図波形
5 ラムダ波を示す心筋虚血例の心電図(Kukulaら)
6 冠動脈攣縮性狭心症と虚血性J波
7 急性心筋梗塞例での虚血性J波
8 一般地区住民でのJ波出現率とJ波例の長期予後(J波例の将来
における虚血性心疾患による不整脈死の可能性)

1.心筋虚血とJ波との関連を支持する事象

  心筋虚血と密接に関連して出現するJ波を虚血性J波(ischemic J wave)と呼び、しばしば心室頻拍、心室細動などのような生命を脅かす重篤な不整脈がこの虚血性J波と関連して出現する場合が稀ならず認められるため、最近、臨床的立場からも非常に関心を持たれるようになった。

 心筋虚血とJ波との密接な関連を示す事象としては、直接的事象と間接的事象とがある。

 直接的事象としては。冠動脈攣縮性狭心症、ST上昇型急性心筋梗塞症などの際に、新たにJ波が出現したり、経過中にJ波が増大して多形性心室頻拍、心室細動などの重篤な不整脈がJ波の顕著化と共に出現する場合が報告されている。

 間接的事象としては、以下のような事実が認められており、これらは間接的にJ波と心筋虚血の関連性を示唆する所見であると考えられている。

 1)女性では、男性に比べて虚血性心疾患に基因する突然死が1/4である。女性では、男性に比べてBrugada 症候群やJ波出現率が低いことが知られている。
 
 2)急性心筋梗塞による急性心臓死は、心筋梗塞の広さや心機能の状態よりも、急死家族歴の有無により強い影響を受ける(遺伝的関与)。
 
 3)下壁のみに限局する心筋梗塞(下壁)に比べて、右室梗塞を合併した下壁梗塞(下壁+右室)例では死亡率が高く、ことに心室頻拍、心室細動などに基因する死亡例が有意に多い。

 以下に文献などからその実例を示す。

A. 冠動脈攣縮性狭心症(57歳、男性)の運動負荷による胸痛出現時に見られた著明なJ波とラムダ様波形(Jastrzebsky M et al: Heart Rhythm 6(6):829,2009)

 上図において V4-6に振幅が大きい、明瞭なJ波を認める。第1誘導、aVL,V2には増大したJ波が、上昇したST部と一体化し、ギリシャ文字のラムダ(Λ)に類似した波形を示している。この心電図は冠動脈攣縮性狭心症で、強い安静時狭心症発作の出現後に行った最大運動負荷時に、胸痛と共にこのような心電図所見が出現した。本例は回旋枝の60%狭窄部にstent留置を行い、Ca拮抗薬の経口投与を行い、その後は狭心症の出現もなく、運動負荷心電図も正常所見を示している。本例は病歴に心室細動が確認されている。

B. ST上昇型急性心筋梗塞症(59歳、男性)に出現した虚血性J波(Jastrzebsky M et al: Heart Rhythm 6(6):829,2009)

 ST上昇型急性心筋梗塞症の発症7時間後に心室細動が出現し、右冠動脈近位部の閉塞を認めた。下図は本例の入院2時間後のPTCA実施前の心電図である。第2,3,aVF誘導に異常Q波があり、下壁梗塞の所見を認める。

 第2,3,aVF誘導では、QRS波の直後にJ波を認め、第3,aVF誘導のST部は、R波の頂点の近くから起始し、斜めに下降してT波と融合してJ-ST融合の所見を認める。PTCA後にはこのJ-ST融合の所見は認められなくなり、低いJ波を残すのみに改善した。

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