4.急性心筋傷害時のST波形

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ラムダ波形を示す心筋虚血例の心電図

1. 心筋傷害時のST上昇波形の諸相  

  急性心筋梗塞症などの心筋傷害時にST上昇が出現することは広く知られている。Goldbergerは、その著書の中で心筋傷害時のST上昇パターンとして下図のような諸種の波形を示している。

1) A:プラトー型
    ST部は基線より上方から起始し、水平に走ってT波と融合し、緩徐に基線に復する。
2) B:ドーム型
    ST部は基線より上方から起始し、上方凸の波形を示して上方に進み、頂点に達した後。下降してT波と融合して基線に復する。
3) 斜め上昇型
    ST部は基線より上方から起始し、斜めに更に上昇し、その頂点でT波と融合し、その後は下降して基線に復する。
4) 三日月型
   ST部は基線より上方から起始し、緩やかなスロープを描きながら下降し、その後は上昇して陽性T波の頂点と融合し、下向きのドーム型あるいは三日月型を示す。
5) 正常型異常上昇
   ST部は基線より上方から始まり、正常のように上方凹の波形を示して上昇し、速やかに基線に復する。   

 下図は急性心筋梗塞症の急性期心電図の一例を示す(斜め上昇型ST)。本例は不安定狭心症から心筋梗塞に移行した例で、第2,3誘導に斜め上昇型ST上昇を認める。

急性心筋梗塞時のST
上昇の一例

A:発症前
B:発症後、第2,3誘導に
斜め上昇型の著明な
ST上昇を認める。

下図も、心筋梗塞症急性期の心電図で、斜め上昇型ST上昇波形を示す。

また下図は、冠動脈攣縮性狭心症発作時心電図の経時的変化を示す。

 このように心筋傷害時のST上昇波形には種々のパターンがあるが、ラムダ型波形、単相曲線様波形などは、通常の心筋傷害時のST上昇波形とは異なっている。

 Birnbaumらは、ST上昇型急性心筋梗塞症の際の心筋虚血の程度により心電図のST-T部の波形が異なるとし、下図のような3型を示している。(Biranbaum Y et al:J Electrocardiol 34(Suppl):17-26,2001)

 Grade 1:ST上昇を伴わない高い対称性のT波を示す。
 Grade 2::QRS波終末部の変形を伴わないST上昇を示す。
 Grade 3:QRS波終末部の変形を伴うST上昇を示す。QRS波終末部変形とは、V1-3におけるS波の欠如ないしJ点/R比≧0.5の場合をさす。

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