第10章 両室肥大のベクトル心電図

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両室肥大のベクトル心電図所見は、左室肥大と右室肥大のベクトル心電図所見の特徴のいくつかが合併したような所見を示す。左・右両心室に負荷を与える疾患が合併している場合を除き、1つの基礎疾患が両室肥大に進展する場合としては、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症などの左→右短絡疾患が基礎にあり、肺の細動脈硬化を合併して肺高血圧を伴うようになり、両室肥大のベクトル心電図所見を示すに至る場合が多い(Eisenmenger症候群)。このような場合は左室肥大所見が主体となり、これに右室肥大所見が加味された所見を示す。

 両室肥大のベクトル心電図所見として しばしば見るのは次のような所見である。
   (1) 水平面図でQRS環の最大左方成分≧2.0mV、
   (2) QRS環前方成分の増大、
   (3) 前面図QRS環は反時針式に回転し、左方成分もよく保たれている。
   (4) QRS環後半が著しく右後方に突出する。

 下図(A)は肺高血圧を伴う心室中隔欠損症(15歳、女性)のベクトル心電図である。
 水平面図で、右前方に向かうQRS環初期ベクトルが増大し、反時針式に回転してQRS環主部は左前方に描かれる。QRS環終末部は右後方から原点に帰る。水平面図で、QRS環の前方成分が増大し、右室肥大が考えられるが、前面図QRS環は反時針式に回転し、後半は上方区画にあり、左室肥大の合併が考えられ、総合的に両室肥大と診断される。
 ベクトル心電図診断:両室肥大(左室拡張期性負荷+右室収縮期性負荷)

肺高血圧を伴う心室中隔欠損症のベクトル心電図

 下図(B)も肺高血圧を伴う心室中隔欠損症(3歳、女児)のベクトル心電図である。
 水平面図で、QRS環起始部は右前方に出て反時針式に回り、QRS環主部は左前方にあり、QRS環終末部は右後方にある。QRS環の前方成分は増大し、右室肥大の存在を示す。前面図QRS環初期ベクトルは右下方に出て反時針式に回り、QRS環後半は上方に挙上し、終末部は右上方に向かう。この前面図QRS環の所見は左室肥大を示しており、総合的に両室肥大と診断される。
 ベクトル心電図診断:両室肥大(左室拡張期性負荷+右室収縮期性負荷)。

肺高血圧を伴う心室中隔欠損症のベクトル心電図

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