第12例 小児正常心電図
第12例:
下図の心電図をどのように診断しますか?

質問:
1.リズムは?(正常洞調律、洞頻脈、洞徐脈、洞不整脈?)
2.QRS軸は?(正常軸、左軸偏位、右軸偏位?)
3.各波の時間間隔に異常があるか?(いちいち測定するのではなく、一見した印象でよい)
4.各波の振幅、波形に異常があるか?(いちいち測定するのではなく、一見した印象でよい)
5.前面図におけるQRS波の移行帯はどの誘導か? また、前面図における平均QRSベクトルの方向は何度か?
6.前面図におけるT波の移行帯はどの誘導か?また前面図における平均Tベクトルの方向は何度か?
7.(5,6)を総合して、前面図におけるQRS-Tベクトル夾角は何度か?
8.水平面図におけるQRS波の移行帯はどの誘導か?
また、前面図における平均QRSベクトルの方向は何度か?
9.水平面図におけるT波の移行帯はどの誘導か?また、水平面図における平均Tベクトルの方向は何度か?
10.
7.(8,9)を総合して、水平面図におけるQRS-Tベクトル夾角は何度か?
11.この心電図の被検者の年齢は何歳くらいか?
12.T波がV1-3で陰性であるが、これは異常所見か?
13.V1-3でR波の振幅が高い傾向があるが、これは異常所見か?
14.以上を総合
して、本例の総合的な心電図診断は?
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第12例解説:
1.リズムは?(正常洞調律、洞頻脈、洞徐脈、洞不整脈?)
RR間隔が0.48秒ですから、心拍数は125/分となり、洞頻脈です。
2.QRS軸は?(正常軸、左軸偏位、右軸偏位?)
QRS波は第1、第3誘導で共に陽性(上向き)ですから、New York心臓協会の定義に従って、正常QRS軸です。
3.各波の時間間隔に異常があるか?(いちいち測定するのではなく、一見した印象でよい)
頻脈のためにPP間隔、RR間隔が短かく、QRS間隔が少し狭い感じがします。
4.各波の振幅、波形に異常があるか?(いちいち測定するのではなく、一見した印象でよい)
V1-3で陰性T波を認め、V1-3でR波の振幅がやや高いように見えます。
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5.前面図におけるQRS波の移行帯はどの誘導か? また、前面図における平均QRSベクトルの方向は何度か?
前面図誘導(すなわち6個の肢誘導)で、丁度、移行帯波形を示す誘導はありませんが, aVLが最も移行帯波形に近い形をしています。従って、前面図におけるQRSベクトル(平均QRSベクトル)は、aVLの誘導軸に垂直な方向に向かっており、そのやや+側にあります。すなわち、+60度のやや左側(下方)にあります。
6.前面図におけるT波の移行帯はどの誘導か?また、前面図における平均Tベクトルの方向は何度か?
前面図誘導(6つの肢誘導)でのT波の移行帯波形は第3誘導にみられます。従って前面図におけるTベクトル(平均Tベクトル)の方向は第3誘導に垂直な方向で、そのやま+側にあります。つまり、+30度の方向で、そのやや右側(下方)にあります。
7.(5,6)を総合して、前面図におけるQRS-Tベクトル夾角は何度か?
上記の5,6を総合して本例の前面図におけるQRSベクトル夾角は30度となり、ベクトル夾角の拡大はありません。
8.水平面図におけるQRS波の移行帯はどの誘導か?
従って、前面図における平均QRSベクトルの方向は何度か?
水平面図におけるQRS波の移行帯波形はV2とV3との間にあります。従って、QRSベクトルはV2(+90度)とV3(+75度)の中点と心臓の中心を結んだ線(+83度)と垂直な方向にあります。すなわち−7度になります。胸部誘導軸の角度についてはMassi, Walshの角度を使用しました。
9.水平面図におけるT波の移行帯はどの誘導か?また、水平面図における平均Tベクトルの方向は何度か?
水平面図におけるT波の移行帯波形を示す誘導はV3です。V3の角度は+75度(Massi,Walsh)ですから、本例における水平全図Tベクトルの方向は+75度に垂直な方向、すなわち−15度です。
10.(8,9)を総合して、水平面図におけるQRS-Tベクトル夾角は何度か?
上記の8)9)から、本例の水平面図におけるQRS-Tベクトル夾角は8度となり、ベクトル夾角の拡大はありません。
11.この心電図の被検者の年齢は何歳くらいか?
この質問は非常に大切で、この心電図をここに提示したのは、この説明をしたかったからです。この心電図を一見して次のような特徴的所見があります・
(1) QRS間隔が狭い感じがする。
(2) 頻脈(洞頻脈)がある。
(3) 右側胸部誘導でT波が陰性である(すなわち、Tベクトルが後方に向いている)。この所見は、若年性T波(juvenile
T
wave pattern)と呼ばれ、小児、若年者、若年・青年女性に特徴的な正常所見です。
(4) 右側胸部誘導でR波の振幅が相対的に高く、R/S比が大きい傾向がある。これは若年者にみる生理的右室優位の表現です。
以上の(1)〜(4)から、本例は小児の正常心電図と診断されます。
12.T波がV1-3で陰性であるが、これは異常所見か?
これは、上述のように若年性T波と呼ばれる所見で、正常小児心電図所見の特徴の1つです。なおこの所見は、正常小児のみならず、若年男性、若年・青年女性にも見られ、時には女性では壮年期にも認められることがあります。
13.V1-3でR波の振幅が高い傾向があるが、これは異常所見か?
これは小児心電図に見る「生理的右室優位」の表現で、正常所見で、決して右室肥大の表現ではありません。
14.以上を総合して、本例の総合的な心電図診断は?
以上を総合して、本例は「正常小児心電図」と診断されます。
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