第13例 右室収縮期性負荷(ファロー四徴症)

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第13例:
症例:8歳、男児
臨床的事項:心基部にLevine 5 度の収縮期性雑音を聴取し、その部に収縮期性thrillを触れるが、チアノーゼはない。 下図は本例の心電図である。

ファロー四徴候の心電図

1.リズムは?
 P波は、第1、第2、V5, 6で陽性ですから洞調律です。記録用紙の大きいマス目5 個(1秒)の間に1個のQRS波が出ていますから、心拍数は60/分以上で、ordinary  sinus rhythmと診断されます(normal sinus rythmでなく、ordinary sinus  rhythmです)。

2.QRS軸は?
  QRS波の平均振幅(陽性波と陰性波の振幅の代数和)を見ると、第1誘導では陰性、第3誘導では陽性ですから、右軸偏位があります(New York心臓協会基準)。

3.P波は?
 P波の振幅は右房負荷の診断基準を満たしていませんが、V1,2で尖鋭ですから右房負荷(疑)があります。因みに、右房負荷診断基準は下記の如くで、以下の2基準の内の何れか1つをを満たせば右房負荷と診断します。
  1) 肢誘導のP波の振幅が≧2.5mm   
  2) V1のP波が尖鋭で、振幅が≧2.0mm

4.本例の心電図診断は? 
  この心電図で認められる異常所見は下記の所見です。  
 1) QRS軸の右軸偏位(軽度)
 2) V1のR波の振幅増大とR/S≧2  
 3) V1, 2の高くはないが、尖鋭なP波  
 
 4) V6におけるR波の相対的振幅低下
 5) V1の陰性U波  
 以上の所見、ことに2)の所見は右室肥大診断基準を満たしています。

 従って、本 例の心電図診断は下記の如くなります。  
  1.正常洞調律
  2.右軸偏位
  3.右室肥大(右室負荷):右室収縮期性負荷

 右室肥大の場合は、右室収縮期性負荷(圧負荷)か、右室拡張期性負荷(容量負荷)の何れであるかを考えないといけません。
 右室拡張期性負荷の際には、不完全右脚ブロック所見を示します。  
 
 右室収縮性負荷は、下記3項目のいずれか1つを満たす際に診断されます。
  1) V1でR/S≧2,かつRV1≧5mm
  2) +110度を超えるQRS軸の右軸偏位
  3) V6でR/S<1 なお、この心電図でQRS間隔が一見して狭く、小児心電図の特徴を示しています。こ の心電図が 右室肥大であることは、V1の陰性U波によっても示されています。単なる 右軸偏位ではV1のU波が陰性になることは絶対にありません。  

 右室収縮期性負荷を起こす先天性心疾患は限られてきます。チアノーゼがあれば、最も多いのはファロー4徴です。アイセンメンジャー症候群でも右室収縮期性負荷を示しますが、この際には心室中隔欠損、動脈管開存などの基礎疾患がありますので、左室拡張期性負荷の名残りの所見が残っています。

  しかし、本例には左室拡張期性負荷の名残を思わせる所見は全くありません。純粋の右室収縮期性負荷所見です。そうすると、最も考えやすいのが肺動脈狭窄です。本症では、通常はチアノーゼはなく、激しい労作時などに若干チアノーゼが出現します。また、心基部で強大な駆出性収縮期性雑音を聴取し、かつそのエネルギーが強大なために、雑音聴取部に手のひらをあてるとthrillを触れます(thrill: 猫の喉に手を当てた際に触れる振動感)。

 これらのことを考え合わせると、本例の心電図は「右室収縮期性負荷」に典型的で、肺動脈狭窄症をまず考えなくてはなりません。正常肺動脈圧は20mmHg以下ですが、本例ではおそらく80mmHgくらいに上昇していると心電図所見からは推察されます。

 なお,右室収縮期性負荷と拡張期性負荷についての詳細を知りたい方は下のマークをクリックして下さい。 

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