着用型自動除細動器
(wearable cardioverter defibrillator (WCD)

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 植えこみ型除細動器(ICD)の臨床的有用性は,廣く認識されており、確立された治療法になっている。ICD植えこみの適応があるが、その順番待ちの状態にあったり、ICD装着部位の感染のために、一時的にICDを体外に取り出し,無防備状態にある例、あるいは急性心筋梗塞症で心室頻拍、心室細動が出現し,ICDが必要であるが、急性心筋梗塞症の状態が安定すれば、不要になるため、恒久的植えこみよりも,一時的な悪性不整脈予防対策が必要であると考えられる例などで、一時的に使用する除細動器としてwearable cardioverter defibrillator ( Life Vest, 着用式除細動器)が考案された。
 このような装置は,欧米では、すでに10数年前から多数例に使用され、その有用性が報告されている。我が国でも本年(2014年)1月から、この装置が保険適用され、臨床で使用可能になったので、今後廣く普及することが期待される。そのため、本装置の構成、適応、有効性などの概略を文献的に紹介する。 

 先ずwearable cardioverter defibrillato r(WCD)使用が必要と思われるような症例の紹介から始めたい。 

 症例;54歳、男性
 主訴:不整脈
 病歴:3月14日、入浴後夕食をとっていたところ、急に前胸部、左肩、左背部に強い胸痛を感じ,近くの公立病院を受診し、加療のために約1カ月ほど入院した。入院後は時々不整脈を感じていたが,病状が安定したため退院して自宅療養をしていた。
 その後、不整脈が出現するようになり、労作時呼吸困難、一過性意識喪失などが出現するようになったため、今回、徳島大学第二内科に入院した。
 生活歴:たばこ1日60本、酒2合。

 下図に入院時の標準12誘導心電図および不整脈発作時の心電図を示す。

 
急性広汎前壁梗塞+完全右脚ブロックの標準12誘導心電図 

 下図は本例に見られた心室性不整脈の心電図である

 
心室性期外収縮のながい休止期後の正常収縮に、短い連結期で心室性
期外収縮が出現し,これを引き金として多形性心室頻拍が出現している 

 本例の一過性意識喪失発作は,上の図に見るような多形性心室頻拍~心室細動によるアダムス・ストークス症候群の発作であると思われる。勿論,病棟で心電図をモニターし,心室細動を認めたら、直ちに病室に駆けつけて除細動を行う方法もあるが,同時に複数例がこのような不整脈発作を起こした場合は,そのような場合は対応できない。

 急性心筋梗塞症では、発作直後の数日間がこのような心室細動を起こし易く、最も危険である。急性期を過ぎて、慢性心筋梗塞の状態になれば、心室細動の危険性も著しく低くなる。このような時期の心室細動の治療には米国Zoll社が製作し、2002年に米国FDAが認可したwearable cardioverter defibrillator ( 商品名Life Vest;vest=チョッキ)があり、すでに欧米では6万人以上に使用されているとのことである。

 旭化成がZoll社を買収して子会社化し、我が国でも2014年1月1日付で保険適応されたため、今後、我が国でも広く使用されることが期待される。本装置は我が国では日本不整脈学会が「着用型自動除細動器(WCD)]と呼んでいる。以下、ここではWCDの略称を用いる。

 下図にWCDと、それを装着した状態を示す。これはICD (植えこみ型除細動器) のように手術により体内に埋め込むのではなく、vest(チョッキ)のように着脱が簡単にできる除細動器である。以下、WCDの装置構成、適応、使用成績などにうついて 主としてAdlerらの報告を参照にして解説する。

 
WCD(Life vest)を装着した状態(innternetより) 

 下図は本装置の構成を示す。重さは635gで、Garment・電極・ベルト・アセンブリー、(garment= 衣類)、電池パック、警報器モジュールで構成されている。電極は3個の除細動用電極と4個の心電図記録用電極で構成されており、心室頻拍や心室細動などの除細動を必要とする心電図波形を検知すると警報音と振動により本人に知らせる。この際, 患者に意識があれば,自分で装置の解除ボタンを押して電気ショックを回避解除できる。警告音が鳴った後、一定時間内に解除ボタンが押されなければ、電極内の導電性のジェルが放出され、放電が起こって除細動される。単一の不整脈事故について5回まで放電できる。

 
着用型自動除細動器の構成 

 この装置はループ心電計としての機能も持ち, 頻脈性および徐脈性不整脈を持続的に記録できるが, 徐脈を支援するペーシング機能や頻脈性不整脈に対すoverdrive pacing機能は持たない。VT/VF開始から放電までの時間は1分以内である。体内埋め込み式除細動器(ICD)に比べて、WCDでは偶発的放電が起こる危険が強いと考えられるが、警報装置による自己解除できるため、誤作動による放電を避けることができる。

 心室細動検出時の放電エネルギーは一定で, 初期の装置は230ジュールを用いていたが、最近の装置では70ないし100ジュールの二相性ショックを行う方式を採用している。本装置を使用する場合は, 患者に前もって電池の交換、充電方法、警報装置の解除方法などについて十分な教育を行っておく必要がある。

2.WCDの適応
 下表にChungら (米国、2010年、3,569例)およびKleinら (ドイツ、2010年、354例)の報告におけるWCD使用例の基礎疾患を示す。米国とドイツでは各適応疾患の頻度が若干異なるが、本装置の適応疾患はこの表からおおよそ理解できる。
 1) ICD摘出後(感染など)
 2) ICD植えこみ待機中の例、ICD植えこみ拒否例
 3) 新鮮心筋梗塞(事に心機能低下例)
 4)  冠動脈大動脈バイパス移植術(CABG)の術後例
 5) 非虚血性ないし原因不明の心筋症
 6) 心臓移植待機中の例
 7) 急性心停止、イオンチャネル病
 8) その他

 No 適応疾患  米国  ドイツ 
 1  ICD摘出後  22 10 
 2  ICD植えこみ遅延(植えこみ拒否を含む)  16  2
 3  新鮮心筋梗塞(EF≦35%) 12.5  39 
 4  新鮮心筋梗塞(EF≧35%) 4
 5  CABG後(EF≦35%) 25
 6  非虚血性心筋症(EF≦35%) 20  10
 7  原因不明の心筋症(EF≦35%)  8  0
 8  心臓移植待機中  0 6
 9  急性心停止、イオンチャネル病  0  8
 10  その他  7  0
   計  100 100 
Adler A et al:Circulation 2013;127:854-860から作成   

3. WCDの有効性
 本装置を使用したすべての報告でその有効性が示されている。Kleinらは354例のWCD使用例で21例にVT/VFが出現し、うち20例(95.2%)に有効であった事を報告している。Chungら(2010年、3569例)の本装置使用例では、80例中79例(98.8%)で有効であったことが報告されている。不成功であった1例での不成功の原因は、,ショックの10分前に抑制ボタンを自分で押したためであったとのことである。

 VT/VF後の生存率は高く、Chungらの報告では、心室細動が起こった80例中72例(90%)が生存している。死亡した8例中4例では、最初の発作は成功裏に治療されたが、その後、高度の生命維持治療にもかかわらず死亡したとのことで、結局、本装置による治療の不成功例は4例のみであった。

 下表にAdlerらのWCD集計例3,569例における各適応疾患毎のWCD使用時間、適切ショック放電回数、初回ショックの成功率、不適切ショック出現回数、死亡率を示す。

対象  例数  平均WCD
使用時間 
適切ショック・VT・
VF数/患者数 

最初のショック
の成功率(%)
 
不適切ショック
回数/例数
死亡率
(%) 
 SCA例でのEPS 9   100    
 VT例でのEPS  12  /    100    
 先天性心疾患  43  27    5
 遺伝性不整脈  119  29  3/2  100  7/4  2
 産褥性心筋症  107  134  0    0  0
 非虚血性心筋症  159  36  2/1  100  0  7
 症候性心不全(EF≦30%) 
or MI/CABG後の急死
 289 93   8/6  75  6/6  4
 all comers  354  106  21/11  95  3/NA  NA
 all comers  3569  53  80/59  99  NA/67  1

4)WCD安全性
 不適切作動は、本装置を使用した43-354例(平均使用期間27-124日)で0-3%であったことが報告されている。最大の登録研究であるChung らの報告での誤作動出現率は1.9% (1.4%/月)であった。

5.患者のコンプライアンス
 患者が本装置を装着した時間は自動的に記録される。十分な訓練を受けて本装置を使用した場合、大多数の例は使い易いとの印象を持っており、約1/4の例がICDよりもWCDを選ぶと答えた。しかし、WCD使用例の約半数で誤った警告音のために睡眠障害を訴えており、このような警告は13日に一度程度の頻度で出現し、、WCD使用例の5%がこのことが原因で装着を中止している。

6.生存率
 Chungらの研究では、3569例のWCD使用例における53日の平均使用期間中の生存率は99.2 %、VT/VF後の生存率は90%であった。我が国の消防局が発表した「平成25年度版救急・救助の現況」によると、平成24年中に救急搬送された心肺機能停止傷病者の内、心原性かつ一般市民により目撃があった症例の1カ月後の生存率は11.5%であったとのことであるので、WCD使用例の生存率は著しく高いことが分かる。

7.保険適応
 欧米では既に10数年の使用経験がある。わが国では平成26年(2014)1月1日付で保険適用されたが、その使用に際しては以下のような要件を満たすことが必要である。
 1)  WCDを治療に使用できる機関は、ICD施設基準を満たしている必要がある。
 2)  WCD治療に関与する医療従事者(医師、メディカルスタッフ)は危機を提供するメーカーが行う研修を受講することが必要である。
 3) WCDを処方する医師はICD/CRT研修終了証の取得者であることが基本条件である
(CRT=心臓再同期療法)
 4) WCD試用期間は原則的に3カ月を上限とする。
 5) WCD使用者の就労、自動車運転の可否は、ICDに準じて判断する。自動車運転は原則として許可されない。
 6) 保険点数は、着用型自動除細動器使用は360点、植込型除細動器移行期加算は23,830点である。

 以上、新鮮心筋梗塞例で、long-short ventricular sequenceを契機として多形性心室頻拍、心室細動が出現した例の心電図を紹介すると共に、最近、わが国でも保険適応が認められ、今後広く使用されることが予想されるwearable cardioverter defibrillator (WCD,着用型自動除細動器)についての一般的な概念を紹介した。

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