第45例 右室拡張期性負荷(IRBBB),心房中隔欠損(疑)

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第45例
症例:7歳、男児
臨床的事項:生下時から風邪にかかり易く、心基部に収縮期雑音を指摘されている。日常生活には差し支えないが、疲れ易く、激しい運動時などには心悸亢進、呼吸困難を容易に訴える。チアノーゼはない。
下図は本例の心電図および胸部X線写真である。

質問
1.この胸部X線写真の所見は
2.心電図について:  
  1) リズムは?   
  2) QRS軸は?   
  3) P波は?   
  4) QRS波は?   、
  5) T波は?   
  6) 以上を総合して本例の心電図診断は?
3.臨床的事項、胸部X線写真、心電図を総合してどのような疾患を考えるか?

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第45例解説

1.この胸部X線写真の所見は?
 左第2弓(肺動脈幹)が膨隆し(肺動脈幹拡大)、肺門陰影は増加し、肺血流の増大(左→右短絡血流の存在)を反映しています。右第2弓も右方に膨隆し、右房負荷の存在を示しています。大動脈頭は不明瞭です(心臓長軸周りの時針式回転→右室拡大)。これらの所見は、心房中隔欠損症に極めて典型的です。ちなみに肺鬱血があると気道感染にかかり易くなるため、先天性心疾患例で、風邪にかかり易い例では、左→右短絡を疑うことが必要です。

2.心電図について:
  1) リズムは? : 洞リズム
  2) QRS軸は? :右軸偏位
  3) P波は? :V1,2で尖鋭で、右房負荷を反映しています。
  4) QRS波は?
    QRS間隔は0.12秒以下ですが、V1のQRS波形はrSR's' 型を示し、不完全右脚ブロックと診断されます。
  5) T波は?
    V1〜V4まで陰性〜二相性で、Tベクトルの著明な後方偏位があり、右室負荷を反映しています(right ventricular strain)。
  6) 以上を総合して本例の心電図診断は?
    (1) 洞調律
    (2) 右軸偏位
    (3) 右房負荷
    (4) 不完全右脚ブロック (右室拡張期性負荷)
    (5) 右室過負荷 (right ventricular strain)

3.臨床的事項、胸部X線写真、心電図を総合してどのような疾患を考えるか?

 この例は、病歴から先天性心疾患が考えられます。心電図が不完全右脚ブロックを示すことから右室拡張期性負荷を起こす疾患を考えなくてはなりません。先天性心疾患の中で、右室拡張期性負荷を起こす疾患としては、心房中隔欠損症(二次孔欠損、一次孔欠損、心内膜床欠損), Lutembacher症候群、肺静脈還流異常、Ebstein奇形、肺動脈弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全などが考えられます。これらの中で最も典型的な右室拡張期性負荷を起こす疾患は心房中隔欠損症です。
 
  心房中隔欠損症の中で、二次孔欠損ではQRS軸は右軸偏位を示す場合が多く、一次孔欠損・心内膜床欠損では左軸偏位を示す場合が多いことが広く知られています。本例では肢誘導QRS軸は右軸偏位を示していますから、二次孔型心房中隔欠損症が最も考え易いと思います。

 
(註) Lutembacher症候群:心房中隔欠損症と僧帽弁狭窄との合併例をいいます。僧帽弁狭窄としては、先天性は少なく、多くは後天性です。心房中隔欠損と僧帽弁狭窄が合併すると、僧帽弁狭窄による左房負荷は軽減されますが、心房レベルにおける左→右短絡は増大し、心房中隔欠損の病像が強調されます。)

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