第14例 房室結節リエントリー性頻拍

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第14例:
症例14:58歳、男性
主訴:心悸亢進発作
病歴:10年前頃から、1か月に1度くらいの頻度で心悸亢進発作が出現するようになった。頻脈発作がおこると、病院に急患として受診し、抗不整脈薬(Ca拮抗薬、プロカインアミドなど)の静注を受けて発作は停止している。現在は、発作予防のために抗不整脈薬(アプリンジン)を毎日内服している。抗不整脈薬内服中にもかかわらず、今回のように発作が起こっている。
下図は頻脈発作時の心電図である。

房室結節回帰性頻拍の心電図

 この心電図の特徴は、QRS間隔が狭い心室群が、規則正しく毎分150の頻度で出現していることです。 この所見はいわゆる発作性上室頻拍(上室頻拍)に特徴的です。
 第1,2,V6誘導で著明なST低下を認めます。これは頻脈に起因する相対的冠不全によるものです。
 しかし、最近は、この程度の診断(上室頻拍という程度の)では不十分になりました。頻脈性不整脈の治療にカテーテルアブレーションなどが広く行われ、かなり優秀な治療成績を上げているので、もっと詳細な診断が要求されています。 


他方、諸種の不整脈の心臓電気生理学的検査による検討成績が蓄積され、このことも不整脈の診断精度を以前に比べて画期的に向上させています。  この心電図で注意するべき点は、は頻脈発作時の心電図で、第2、第3誘導、V1誘導の QRS波の最後の部分に結節がある所見です。これは逆伝導性P波が重なって生じたもので、この頻脈発作は房室結節回帰性頻拍(房室結節リエントリー性頻拍)と診断されます。
 いわゆる発作性心頻拍の原因による分類には、異所性頻拍と回帰性頻拍(リエント リー性頻拍)の2種類があります。 上室頻拍の内の異所性頻拍の代表的なものは発作性心房頻拍です。この場合には変形したP波が多数出現します。その実例はまた別の機会にお見せします。  
 回帰性頻拍(リエントリー性頻拍)が成立するためには、リエントリーのための回路が必要です(下図)。

リエントリーの機序

 上図はリエントリー回路の模型図です。興奮がその回路のある部分(A)に到達した際に、その部分がたまたま不応期にあると、興奮波は他の部分に伝わり、迂回して最初に不応期であった部分に再侵入(リエントリー)します。すると、その時点ではこの部分は不応期を既に脱していますので、この部分を興奮させることが出来、かくして、興奮はこのリエントリー回路をぐるぐる回転し始めます。これが発作性回帰性(リエントリー性)頻拍です。  

 このリエントリー性回路に長い場合と短い場合とがあり、長い場合の代表がWPW症 候群です。このときはリエントリー性回路が長いために、逆伝導性P波がQRS波の後方で、QRS波から離れて出現します。このような副伝導路が関与するリエント リー性頻拍を房室リエントリー性頻拍(atrioventricular reentrant tachycardia) といいます。リエントリー回路が心房→房室結節→ヒス束→心室→副伝導路→心房→ 房室結節というように、副伝導路を夾んで心房と心室の両者が関与しますので、房室 リエントリー性頻拍と呼ばれています。心房と心室の両者の興奮を伴いますので、こ のようなリエントリー性頻拍を昔のように発作性上室性頻拍と呼ぶのは間違った表現 と言うことになります。  

 他方、リエントリー性回路が短い上室頻拍の代表が房室結節リエントリー性頻拍 (atrioventricular nodal reentrant tachycardia)です。上記の房室リエントリー性 頻拍と表現が紛らわしいので注意して下さい。この房室結節リエントリー性頻拍の際 のリエントリー回路は房室結節内に形成されます。従ってこの回路は副伝導路を含む回路に比べると短く、逆伝導性P波はQRS波と重なって明瞭に認めることが出来なかったり、あるいはQRS波終末部に結節 (notch) として認められます。この結節は、逆伝導性P波がQRS波の終末部と重なって生じたものです。  

 下図は、房室結節リエントリー性頻拍の非発作時(洞調律時)の心電図(左)と頻拍発作時の心電図(右)です。

房室結節回帰性頻拍の心電図の特徴

(伊藤明一:実例による不整脈診断Q&A. ヒス束電位図入門、南江堂、東京、1995から引用)

 頻拍時の心電図において、洞調律時には認めら れていない第2,第3,V1誘導のQRS終末部の結節が明らかに認められています。 本例の頻脈発作時心電図にいても第2、第3、V1誘導の QRS波の終末部に結節があり、この所見に基づいて、この頻脈発作が房室リエントリー性頻拍であると診断されます。  房室リエントリー性頻拍はcatheter ablationによる治療が最も有効な不整脈です。

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