Brugada症候群 (39)
日本循環器学会等4学会合同委員会による診療ガイドライン
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2007年、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会、日本不整脈学会の4学会の合同研究班は「QT延長症候群(先天性、二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインは岡山大学 大江透教授を班長とし、8名の班員、10名の協力員、5名の外部評価委員により構成された研究班がまとめたもので、現時点における上記2疾患の進歩の概要をよく伝えており、これらの疾患に興味持つ者にとっては必読の資料です。全部で66頁に及ぶ詳細な記載であるため、この論文でその全容を伝えることはできないため、臨床に関連が深い2,3の項目について簡略に紹介します。
なお、このガイドラインは、日本循環器学会発行のCirculation Journal Vol.68, Supplement 4に全文が掲載されているため、購入を希望する方は下記に電話で問い合わされるとよいと思います。
日本循環器学会 電話075-751-8643, Fax 075-771-3060
1心電図診断基準
Brugada症候群の心電図診断基準として、下表に示す欧州心臓学会のコンセンサス会議報告が提案した心電図診断基準を紹介し、基本的にはcoved型ST上昇を特徴とする心電図学的症候群と認識する立場をとっていますが、ST上昇の程度としては我が国での研究結果に基づき、「coved型を示す≧0.1mV (1mm)のST上昇」を診断基準に入れる事を勧めています。
分類 | Type 1 | Type 2 | Type 3 |
J波高 | ≧2mm | ≧2mm | ≧2mm |
T波 | 陰性 | 陽性or2峰性 | 陽性 |
ST-T形態 | coved | saddle-back | saddle-back |
ST-T部分(終末部) | 徐徐に下降 | 上昇≧1mm | 上昇<1mm |
2 心臓電気生理学的検査の適応
今回、発表されたガイドラインにおいては、下表に示すような臨床電気生理検査の適応についての指針が示されています。
Brugada症候群における臨床電機生理学的検査の適応 |
一般にガイドラインにおける各項目の評価のクラス分けは下記の如くです。
クラスT:有益であるとの根拠があり、適応が一般に同意されている。
クラスUa:有益であるとの意見が多い。
クラスUb:有益であるとの意見が少ない。
クラスV:有益でない。または有害である。
3 Brugada症候群の予後
Brugadaら、Prioriら、Eckardtらの欧米における予後調査に関する研究を紹介すると共に、我が国における登録研究における本症の予後調査成績として、平均24ヵ月の観察期間での不整脈事故の頻度は、突然死/蘇生群で27%, 失神群で3%, 無症候群例で1%とEckardt
らの報告(各17%, 6%, 1%)と同等の成績を得たことを紹介しています。
4.植え込み型除細動器(ICD)植え込み適応
Brugada症候群の突然死の予防に有効な治療手段はICD植え込みです。本ガイドラインは、Brugada症候群に対するICD植え込みの適応として、下表に示すようなガイドラインを示しています。
.5. 薬物治療
Brugada症候群の突然死予防に有効な治療手段はICD植え込みであるが、すべてのBrugada症候群に直ちにICD植え込みを行うわけではなく、薬物治療が必要な場合もあります。
1) electrical stormの予防
24時間以内に2-3回以上の電気的除細動(DCショック)を必要とするような心室頻拍/心室細動(VT/VF)が出現する不整脈発作をelectrical
stormと呼びます。Brugada症候群の不整脈発作は、多くの場合、このような形で発現します。この発作はself-terminating(自己収束的)で、自然に停止する場合もありますが、必ずしも自然停止せず、循環停止→突然死の経過をたどる場合も少なくありません。
ガイドラインは、このようなelectrical stormの際の急性期の心室細動の予防にはイソプロテレノール0.01μg/kg/分の点滴静注から開始し、心電図変化を確認しながら投与量を調節する方法を紹介しています(エビデンスC).
また慢性期の心室細動の予防に下記の3種の薬剤を紹介しています。
(1) キニジン
欧米では発作予防に1400mg/日の大量投与が必要とされているが、我が国での通常用量は300〜400mg/日です(エビデンスC)。
(2) シロスタゾール
phosphodiesterase阻害薬で, ICaを増加し、頻脈によりItoを減少させて発作を予防する。200mg/日の投与で発作を抑制できると報告されています。
(3) ベプリジル
本剤はCa++拮抗薬ですが、Itoと複数のK+チャネルを含むマルチチャネルブロッカーで、発作を予防する働きがあります。通常200mg/日の投与で有効です。