Brugada症候群22タイトル

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Brugada症候群の予後(Brugadaら,547例、2003年)

 Brugada症候群(20.21)では、Brugadaらが1998年および2002年に発表したBrugada症候群の予後評価に関する研究成績を紹介しました。これらの研究では、次の2点が強調されています。

 1) 心室プログラム刺激により心室細動、多形性心室頻拍が誘発される例の生命予後はよくないので、ICD植え込みの適応である。
 2) Brugada症候群の生命予後を改善する治療法としては、ICD植え込みが唯一の治療法で、薬剤療法は全く効果がない。

 しかし、この研究に対して、Pryoriらが異なった研究結果を発表したこともあり、Brugadaらは2003年、症例を547例に増加し、従来とは異なった視点に立って本症候群の予後評価に関する研究を発表しています(Circulation 108: 3092, 2003)。



 すなわち、Brugadaらは「心停止がないBrugada症候群」 547例を集め、これらの例における予後決定因子について検討しています。これらの547例の平均年齢は41±15歳で、2歳から85歳に至る年齢分布を示していました。内、男性は408例、女性は139例です。これらの例では, 55.2% (408例)に心臓突然死の家族歴があり、基礎心電図がcoved型を示した例は391例 (71.5%)です(コンセンサス分類第1型)。また、心室プログラム刺激により心室細動ないし持続性心室頻拍が誘発可能であった例は163例 (40%)でした。病歴に失神発作を124例 (22.7%)に認めています。

 下図は、病歴に失神発作を認める群と認めない群における急死・心室細動の非出現率の経年変化を示します。 失神発作を有する群では、明らかに 経過中に心室細動・急死が多く出現しています。
失神発作の有無による心事故非出現率の経年変化
失神発作の有無による心事故非出現率の経年変化

 また下図は、心室プログラム刺激による不整脈誘発可能例と誘発不能例における急死・心室細動非出現率の経年変化を示します。誘発可能例では、その後の経過において 明らかに急死、心室細動が高率に出現しています。

心室プログラム刺激による不整脈誘発性の有無による<BR>
心室プログラム刺激による不整脈誘発性の
有無による心事故の非出現率の経年変化

 下図は、心室刺激による不整脈誘発性、病歴における失神発作の存在、基礎心電図がcoved型を示すか否か、男性、家系における心臓突然死の存在、などの5項目の観察期間中における急死・心室細動出現に関するハザード比を単変量解析結果と多変量解析結果に分けて示しています。この場合、単変量解析で有意の関連があるとの結果が出ても、多変量解析で有意であるとの結果が出なければ、本質的な関連があるとはいえません。

 単変量解析結果では、心室刺激による悪性心室不整脈誘発性、基礎心電図がコンセンサス分類第1型を示す所見、男性、病歴における失神発作の存在の諸項目が有意なハザード比を示していますが、多変量解析結果では、これらの内、心室刺激による悪性心室不整脈誘発性および基礎心電図がコンセンサス分類第1型を示す所見 の2項目のみが、観察期間中における急死・心室細動出現に関する有意に高いハザード比を示しています。

諸種の臨床指標の心事故出現ハザード比
諸種の臨床指標のBrugada症候群における心事故出現ハザード比

 下図は本研究の結論を示す表です。すなわち、いろんな臨床指標の観察期間中における不整脈事故出現確率を示しています。この表から分かるように、最も予後が悪いのは、基礎心電図がcoved型で、病歴に失神発作があり、心室刺激により悪性不整脈が誘発可能な例です。他方、最も予後良好な例は、薬剤負荷によって初めてcoved型心電図を示し、病歴に失神発作がなく、心室刺激により悪性不整脈を誘発できない例です。
 その他の臨床所見の組み合わせは、この表から分かるように両者の中間的予後を示しています。

臨床的諸指標の評価のまとめ
Brugadaらの2002年研究における臨床的諸指標の評価のまとめ

  以上の研究成績を、Brugadaらは次のように総括しています。

 1.547例中45例(8.2%)で心事故が発生した。内、16例が突然死、29例が心室細動であった(観察期間:24±33カ月、1〜160カ月)。
 2.Bbrugada 症候群で予後評価に最も大切な指標は、心臓刺激での悪性不整脈の誘発性であり、第二の指標は失神病歴の存在である。
 3.失神病歴がないBrugada型心電図(コンセンサス分類Type 1)例でも心臓性急死の高危険度状態になり、2年間に8%の心事故のおそれがある。
 4.心臓電気刺激陽性例ではICD植え込みを行う。誘発不能例では、注意深い経過観察と共に発熱・抗不整脈薬(1群薬)使用時・その他のtrigger因子に注意する。

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