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心膜心筋炎でBrugada型心電図(coved型)を示した例
Brugada症候群(12)では、典型的なBrugada型心電図(coved型)所見を示した縦隔腫瘍例を示しました。本例にみられたBrugada型心電図は、縦隔腫瘍の摘出後には完全に正常化しました。私達も阿南医師会中央病院で澤田誠三先生と御一緒に急性心膜心筋炎に罹患した例に、典型的なBrugada型心電図(coved型)を認めた例(Brugada phenocopy)を経験しましたので、以下にその例を紹介します。
下図は、本例の入院時点(7月17日)および入院5日後の胸部X線写真です。入院時の胸部X線写真では心臓の形態、肺野に異常所見を認めません。
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左:入院当日の胸部X線写真(7月17日)、 右:入院5日目の胸部X線写真(7月21日) |
しかし、この時点の心電図所見は下図に示すように最も著明な右側胸部誘導のST上昇を示していました。入院5日後の胸部X線写真では、はい鬱血と心拡大を認めます。しかし、この時点の心電図では、ST部の上昇の程度はむしろ軽減しており、心電図所見と胸部X線写真で認められる心不全所見との間には解離が認められました。
下図は本例の来院時心電図です。正常洞調律で左軸偏位を示しており、左脚前枝ブロックと診断されます。この心電図で最も顕著な所見はV1のドーム型(単相曲線様)のST上昇です。V2でもST上昇があり、この誘導ではr′波を認め, saddle-back型ST上昇所見を示しています。
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↑ 入院当日の心電図(7月17日) | |
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↑ 入院4日目の心電図 | |
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↑ 入院44日後の心電図 |
上の中央の心電図は、入院4日目の心電図です。入院時に認められたV1のcoved型ST上昇の形態は水平型ないし軽度のsaddle-back型に変化していますが、なおST上昇の程度は強く、V2のST上昇波形はsaddle-back型を示しています。
上の最下段の心電図は、入院44日後の心電図です。入院当日及び第4日目の心電図に認められたような著明なcoved型ないしsaddle-back型ST上昇所見はもはや全く認められなくなり、ST-T波形は完全に正常化しています。
すなわち、本例は典型的なBrugada症候群とは全く異なり、下記のような特徴があります。
1) 失神病歴、急死家族歴がなく、遺伝性は考え難い。
2) 急性心筋炎という明らかな心筋病変の出現と共にいわゆるBrugada型心電図が出現したが、基礎疾患の消褪共に、Brugada型心電図所見は消退し、全く正常な心電図波形に復した。
このような病態は、最近の考えによるとBrugada症候群のカテゴリーではなく、「Brugada phenocopy」という新しい疾患概念に統一し、その成因、臨床的意義について、今後、検討が重ねられるべき症候群に分類するべきであると考えられるようになりました。