QT短縮症候群

トップ頁へ 遺伝性不整脈 QT延長症候群

 ここに紹介する例は私の経験例ではなく、文献からの引用例で、近年、非常に関心を集めている心電図異常です。私は未だ経験例はありませんが、もし外来で見つけたら、絶対に見落とさない積もりで、この論文を読みました。(Gaita F, Giustetto C, et al: Circulation.2003;108:965-970)

症例:35歳、男性
主訴:労作時の失神
病歴:発作性心房細動の病歴あり。
臨床的事項:理学所見正常。循環器、腎臓などの基礎疾患なし。元気に日常生活を行っており、心機能も良好である。
血清脂質、血糖、血清電解質、腎機能を含めて血液化学全て正常、胸部X線写真、心エコー図、心筋シンチグラフィー正常。胸痛は全くない。

下図は本例の心電図です。


35歳、男性。主訴:労作時失神発作(Gaita F et al:Circulation 2003;108:965-970)

 下記に示す例は、上図の症例の妹に当たる31歳女性例です。自覚症状として, dizzinessとpalpitationを訴えています。下図は本例の心電図です。 本例では心臓電気生理学的検査を実施しており、心室の有効不応期は心室内各部において何れも130-140msec以下でした。また、右室流出路のプログラム心室刺激により心室細動が誘発されています。しかし、心房刺激では心房細動は誘発できていません。

31歳、女性。主訴;dizziness、動悸。上図の妹(Gaita F ら:Circulation 2003;108:965

 下図に上記2例が属する家系の家系図を示します。

上記2例の属する家系図(Gaita F らl:Circulation 2003;108:965)

 この家系に特徴的なことは、本家系に属する16名の内、突然死が6名いることです(37.5%)。死亡例の内5例については心電図を調査することが出来ませんでしたが、1例では心電図が記録されています。
 今回、提示した3例の心電図について共通する所見は、著明なQT間隔(QTc間隔)の短縮と著しく高いT波です。

 従来、QT間隔と心臓突然死の関係を論じられてきたのはQT延長であって、Romano-Ward症候群、Jervell and Lange-Nielsen症候群が古くから知られていました。しかし、QT延長のみならず、QT間隔短縮も心室筋の有効不応期を短縮することにより、致死的不整脈を惹起し得ることが最近注目され、「QT短縮症候群(shortQT syndrome)」として、近着の米国の医学雑誌に掲載されるようになりました。

 文献的に報告されているQT短縮症候群の臨床的特徴は下記の如くです。
 
  1.QTc間隔の著明な短縮を認める(QTc<300msec)。
  2.高いT波
  3.器質的心疾患は存在しない。
  4.突然死の家族歴がある。
 
  5.不整脈に関連した自覚症状を有する場合がある。
   1)major symptome:失神、心停止後蘇生
   2)minor symptome:動悸、dizziness、発作性心房細動)
   この内、発作性心房細動は、心房筋の有効不応期の短縮による。
  6.上記の心電図所見は、恒常的に認められる(Brudadaのように変動しない)。
  7.突然死の危険は、生直後から老年期まで、あらゆる年齢層に認められる。
  
  8.心臓電気生理学的検査
   1)心室プログラム刺激で心室細動が誘発される。
   2)心室内の全ての部位で有効不応期の短縮がある。
   3)発作性心房細動を有する例では、心房筋の有効不応期の短縮を認める。
 
  9.硫酸キニジン経口投与がQT間隔を延長し、不整脈事故の防止に有効である。
 10.植え込み式除細動器は、QT間隔の正確な把握が困難なため、誤作動が多く、必ずしも第1適応とは言い難い。
  11.現在のところ、遺伝子変異が4種類みつかっており、そのためQT短縮症候群は、SQT1,SQT2,SQT3およびSQT4の4種類に分類される。

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