5.左脚中隔枝切断による心外膜面興奮伝播過程の変化(中屋、井上)

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 犬において、実験的に左脚中隔枝を切断することにより、心尖部領域の興奮遅延を認め、ベクトル心電図ではQRS環の前方偏位およびスカラー心電図で前方成分/後方成分比の増大を認めた。


犬の左室伝導系 犬の左室伝導系
イヌの左室伝導系:明らかに左脚中隔枝を認めるが、その形態には個体差が大きい。
LA:左脚前枝、LP:左脚後枝、SEP:左脚中隔枝

左脚中隔枝単独切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図および心表面興奮伝播過程(下図)

左脚中隔枝単独切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図および心表面興奮伝播過程
X、Y、Z:ベクトル心電図スカラー心電図 VCG:ベクトル心電図
F:前面図 S:左側面図 H:水平面図
Z誘導での上向きの振れは前方、下向きの振れは後方成分を示す。

 左脚中隔枝切断により、スカラー心電図で前方成分が増加し、前方成分/後方成分比が増大している。ベクトル心電図でも、水平面図QRS環前方成分が増加している。心表面興奮伝播過程においては、心尖部の興奮の軽度の遅延を認める。左脚中隔枝単独切断により、切断前に認められた早期興奮部は消失し、興奮は逆に心尖方向に向かっている。

左脚後枝単独切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図、および心表面興奮伝播過程(下図)

左脚後枝単独切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図、および心表面興奮伝播過程

X、Y、Z:ベクトル心電図スカラー心電図 VCG:ベクトル心電図
F:前面図 S:左側面図 H:水平面図
Z誘導での上向きの振れは前方、下向きの振れは後方成分を示す。

 左脚後枝単独切断では、ベクトル心電図前面図最大QRSベクトルの方向には変化を認めないが、QRS終期ベクトルの方向は右下方に偏位した。心外膜面興奮伝播過程では、左室後基部に軽度の興奮伝達遅延を認めたのみで、他の部位では変化を認めなかった。

 左脚後枝+中隔枝合併切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図および心表面興奮伝播過程(下図)

左脚後枝+中隔枝合併切断前(上)および切断後(下)のベクトル心電図構成スカラー心電図、ベクトル心電図および心表面興奮伝播過程
X、Y、Z:ベクトル心電図スカラー心電図 VCG:ベクトル心電図
F:前面図 S:左側面図 H:水平面図
Z誘導での上向きの振れは前方、下向きの振れは後方成分を示す。

 左脚後枝+中隔枝の合併切断では、ベクトル心電図の前面図最大QRSベクトルの方向は右下方に偏位し、前面図QRS環も時針式に回転した。心外膜面興奮伝播過程では、心尖部から心基部にかけて広範囲な興奮到達遅延を認めた。

 下表に、左脚各分枝切断実験成績のまとめを示す

左脚各分枝切断実験成績のまとめ
QRS:前面図QRS環、Scalar:ベクトル心電図構成誘導心電図、
CW:時針式回転、8字:8字式回転、CCW:反時針式回転、
前枝、後枝,中隔枝:左脚の各分枝。

 左脚中隔枝切断により、心尖部の興奮が遅延し、QRS環全体として前方に偏位する。中隔枝切断に左脚前枝または後枝切断を加えると、心尖部のみならず、心尖部を含むより広範な部位への興奮が遅延する。

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