7.心室内伝導障害による説明が最も妥当と考えられるQRS前方成分増大例

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 右室肥大を起こす基礎疾患、右室肥大を示唆する臨床症状・検査所見、心臓電気軸異常の原因となるような胸郭変形・胸郭内疾患、高位後壁梗塞、WPW症候群、右脚ブロックの典型的心電図所見もなく、心エコー図、肺動脈圧測定、心筋シンチグラフィーなどでも明らかな器質的心疾患を認め得ないような例において、右側胸部誘導で著しいR波の増高とR/S比増大を示す例がある。このような例における右側胸部誘導のR波増高は、心起電力の前方成分増大によるものであり、その説明としてある種の「心室内伝導障害」を考えた方が最も説明し易い。
 以下にそのような1例の心電図を示す。

 症例:56歳、女性
 主訴:心電図異常(右側胸部誘導におけるR波増大)
 病歴:たまたま心電図検査を受けて上記の心電図異常を指摘されたため、数カ所の病院で精密検査を受けたが、診断不明のまま今日に至っている。自覚症状は全くなく、最初の心電図記録から数年経過しているが、心電図所見は本質的に不変である。

 現症、主要検査所見:血圧 130/80mmHg, 理学的所見:正常、胸郭変形(−)、肺機能正常、末梢血液所見:正常。総コレステロール 301mg/dl、中性脂肪 162mg/dl。胸部X線写真では、大動脈弓部に石灰化を認める。心胸郭比は51%。

 本例の心電図とベクトル心電図を下図に示す。

   56歳、女性の心電図
標準誘導心電図
QRS軸は正常軸(左軸偏位の傾向)で、右側胸部誘導でR波の増高とR/S比増大を認める。
56歳、女性のベクトル心電図
ベクトル心電図
水平面図QRS環の著明な前方偏位を認める。QRS環には心室内伝導障害を反映する
刻時点(タイマー)密集の所見は認めない。

 このような心電図所見を示す例はさほど稀ではなく、完全左脚ブロックとほぼ同頻度で認められる。

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