第49例 頻脈依存性左脚ブロック

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第49例
症例:50歳、男性
臨床的事項:軽症高血圧があるが、何ら自覚症状はなく、元気に日常生活を送っている。
下図は、本例に運動負荷試験を行った際の負荷後心電図である。

問:この心電図の診断は?

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この心電図の所見は次のごとくです。

1.リズム:正常洞調律
2.QRS軸:前3拍は左軸偏位、後3拍は左軸偏位傾向。
3.心電図所見:
 この心電図で興味ある所見は、記録されている6心拍のうち、前半分の3心拍と後方半分の3心拍とは心室群の波形が著しく異なることです。前半分の3個の心拍のQRS間隔は幅が広く 0.12秒を超えており、それぞれの心室群の前にP波が一定間隔で認められることから、期外収縮のようなものではなく、洞性興奮の伝達による心拍であり、完全左脚ブロックと診断されます。

 他方、後方の3心拍ではQRS間隔は0.08秒ですから、脚ブロックは認められません。すなわち、前半分は完全左脚ブロック、後半分は正常心室内伝導波形です。このような状態を間欠的脚ブロック(intermittent bundle branch block) といいます。

 この心電図は、運動負荷試験を行い、その終了後の回復過程に記録された心電図ですから、負荷により心拍数が増加し、そのために左脚ブロックを生じ、運動中止により心拍数が減少する過程で左脚ブロックが消失したものと考えられます。
 

 このように頻脈により生じた脚ブロックを心拍依存性脚ブロック(rate-dependent bundle branch block) と呼びます。この場合は頻脈により生じたと考えられるため頻脈依存性左脚ブロック(tachycardia-dependent left bundle branch blcok) と診断されます。
 
 一見、左脚ブロック波形を示している部分と、そうでない部分とのRR間隔にあまり差がありません。しかし、詳しく計測してみますと、前半のRR間隔は、後半のRR間隔よりも少し狭いことが分かります。心室内伝導系は、この程度のわずかのRR間隔の変動によっても影響されます。脚ブロックを起こすか、あるいいは起こさないかは、極めてcriticalな問題なのです。

 このような頻脈依存性脚ブロックは、心筋細胞活動電流の第3相の延長により生じると考えられており、phase 3 blcok (第3相ブロック) と呼ばれる場合もあります。
 
 以上から、本例は「頻脈依存性完全左脚ブロック」と診断されます。

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