第48例  洞徐脈、房室ブロックを伴う心房性期外収縮

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第48例:
症例:75歳、男性
臨床的事項:数年前から徐脈傾向を示していたが、最近、眼前暗黒感が出現するようになったため来院した。
下図は本例の外来初診時の心電図である。 

質問
1)この不整脈の診断は?

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第48例解説:
 
1.まず第2心拍のT波に注目して下さい。このT波は、他の心拍のT波とは形が異なり、すこし振幅が高く、かつ尖っています。これは本来のT波の頂点に心房性期外収縮のP波が重なったためです(T+P)。しかし、このP波には心室群がありません。これは、心房性期外収縮のP波が心周期の早い時期に出現したために、前の収縮(先行収縮)の不応期に重なり、心室への興奮伝導がブロックしたためです。

 すなわち、一種の機能的房室ブロックと呼ぶべき状態です。通常、このように生理的不応期のために興奮伝導が妨げられた状態を干渉(interference) と呼んでいます。しかし、便宜的にこのような心室群を伴わない心房性期外収縮を「房室ブロックを伴う心房性期外収縮(blocked atrial premature beats、blockeed APC) と呼んでおり、日常の診療でしばしば認める所見です。

2.次に注目するべき所見は、心房性期外収縮後の心拍(C)のP波形が、他の心拍のP波形とは異なる所見を示していることです。これは心房期外収縮後の非代償性休止期に心房性補充収縮(atrial escaped beat) が出現したためです。

 本例には本来、洞徐脈があるため(心房頻度:40/分)、期外収縮後の休止期が長く、心停止の出現をおそれて、多少、過敏な心房異所性中枢から補充収縮 (escaped beat) が出現したものであり、生理的な心臓予備能の表現と考えられます。
 
3.次には、本例の基礎調律に注目して下さい。一見して明らかなように高度の洞徐脈(sinus bradycardia) があります。PP間隔は1.6秒ですから、心拍数は37/分の高度の洞徐脈です。正常者でも心拍数が少ない人は多くいます。

 従って、洞徐脈の多くの例は「正常所見」です。他方、洞結節の機能障害に基づく疾患があり、「洞不全症候群(sick sinus syndrome, SSS) ]として知られています。Rubenstein(1972)は、洞不全症候群に下表のように3型があることを提唱しました。
説明
T型 原因不明の持続性洞徐脈
U型 洞停止あるいは洞房ブロック
V型 徐脈・頻脈症候群

 洞不全症候群の診断には、ホルター心電図検査ないし心臓電気生理学的検査(electrical physiological study, EPS) が必要です。ことに後者により心房の頻回電気刺激を行い、その刺激を中止した際に認められる洞結節自動能の回復時間を測定することが診断に重要です(sinus node recovery time, SRT)。洞徐脈の症例を日常臨床で見た場合、これが生理的洞徐脈なのか、あるいは洞不全症候群に基づく洞徐脈であるかの区別は、次の2点を参考にします。

 1) 徐脈の程度: 一般に45/分以下の高度の洞徐脈は洞不全症候群に起因する可能性が大きいと考えなければなりません。
 2) 運動による心拍数増加の程度:運動によっても心拍数の増加の程度が少ない場合は洞不全症候群の可能性があります。

 しかし、これらは生理的洞徐脈と洞不全症候群との絶対的な鑑別方法ではありませんので、洞不全症候群が疑わしい例では上述した心臓電気生理学的検査を行い、洞結節のoverdrive suppression testを行い、洞結節回復時間(sinus node recovery time, SNRT) を測定することが大切です。洞結節回復時間についての詳細は下のマークをクリックして下さい。 

 洞結節回復時間の測定とその臨床的意義

以上を総合して、本例の心電図診断は次の如くなります。
  1.洞徐脈
  2.房室ブロックを伴う心房性期外収縮 (blocked APC)
  3.心房性補充収縮

 これらの心電図所見の基礎疾患としては、洞不全症候群(Rubenstein T型)が考えられますので、失神、眼前暗黒感などの自覚症状の有無に注意し、ホルター心電図検査を行う必要があり、さらに必要な場合は心臓電気生理学的検査を実施しなければならない場合もあります。

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