第44例 二次孔型心房中隔欠損にみる不完全右脚ブロック

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症例:9歳、男児
主訴:労作時易疲労性
臨床的事項: 学校の身体検査時に、心雑音を指摘されたことがある。あまり著明な自覚症状はないが、最近、体育の時間などの際に疲れやすく、動悸がし、他の友人のように運動が十分に出来ない。従来から風邪にかかりやすかったが、今回、風邪のためにたまたま受診した近医で心臓精査を奨められて来院した。
下図は本例の心電図である。

質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.QRS間隔は?
4.V1-3のP波形は?
5.V1のQRS波形は?
6.本例の心電図診断は?
7.どのような疾患が考えられるか?
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症例44解説:

 本例は9歳、男児ですから、まず先天性心疾患を考えねばなりません。

 QRS間隔は0.12秒以内で、V1のQRS波がrsR'S' 型を示しているため、「不完全右脚ブロック」と診断されます。第1誘導, V4-6で多少S波の幅が広い所見は、不完全右脚ブロックに対応しています。不完全右脚ブロックは、右室の拡張期性負荷の表現ですから「心房中隔欠損症」をまず考えなくてはなりません。

 次にP波に注目しますと、V1-3誘導のP波は振幅は高くはありませんが、波形が尖鋭ですから、右房負荷が考えられます。

 標準肢誘導でQRS波の振幅とT波の振幅との関係を見ますと、QRS波は第3誘導で最も高く、第3誘導>第2誘導>第1誘導の順になっています。この際、QRS波の振幅の評価は、絶対的な高さ(mm単位)で見るのではなく、波形を観察することにより定めます。

 第3誘導ではS波がないが、第2誘導では明らかなS波を認めますので、QRS波は第3誘導の方が第2誘導よりも高いと判断します。

  一方、T波の振幅は第1誘導>第2誘導>第3誘導となっており、QRS波とT波の振幅の順序が逆になっています。つまり右肥大型の波形を示しており、右室負荷疾患の存在を示唆しています。この点も、本例のV1の不完全右脚ブロック所見が「右室拡張期性負荷」に対応する所見と考えて矛盾しません。

 心房中隔欠損症により不完全右脚ブロック所見を示しているとすれば、どのような形の心房中隔欠損症でしょうか?その際は肢誘導のQRS軸が参考になります。二次孔欠損型の心房中隔欠損症では、QRS軸は右軸偏位を示しますが、一次孔欠損型の心房中隔欠損症あるいは心内膜床欠損症では、QRS軸は著明な左軸偏位を示します。

 従って、本例は不完全右脚ブロック所見から右室拡張期性負荷を考え、QRS軸が右軸偏位を示していることから「二次孔欠損型の心房中隔欠損」を考えます。

 しかし、右軸偏位の程度は強くなく、V5, 6でS波があまり深くないことから、肺高血圧の程度は強くなく、ある程度の短絡量はあるけれども、肺高血圧の程度は軽く、心房中隔欠損閉鎖手術の最も良い適応であると考えられます。

 以上から、本例の心電図診断は下記の如くなります。
  1.洞調律
  2.右軸偏位
  3.右房負荷(疑)
  4.不完全右脚ブロック

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.基礎疾患としては「二次孔欠損型の心房中隔欠損症」が考えられ、心房レベルで左→右短絡血量は多いが(右室拡張期性負荷を起こす程度に)、肺高血圧の程度は軽く、手術の良い適応例であると考えられます。

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