第34例 左室肥大,冠不全所見を示した高血圧例

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第34例:
症例:56歳、男性
臨床的事項:血圧180/96mmHg, BMI 26, 空腹時血糖 114mg/dl, 尿酸 8.2mg/dl, 中性脂肪220mg/dl。

 下図は人間ドック受診時の心電図である。検診担当医はこの心電図をたんに「冠不全」とのみ診断した。

質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.本例に左室肥大所見はないか?
4.本例の心電図診断は?
5.本例の血管障害(脳卒中、心筋梗塞など)を起こす危険はどの程度と考えられる か?
6.代表的な降圧薬の種類を上げよ。
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1.リズムは?
  リズムは正常洞調律です。

2.QRS軸は?
 左軸偏位です。

3.本例に左室肥大所見はないか?
 本例の RV5+SV1 は30mmですから、、この基準は正常範囲内にあります。しかし、 R1+S3=31mmで、基準値(20mm) を明らかに超えており、基礎疾患として高血圧もあるこ とから「左室肥大」と診断できます。

4.本例の心電図診断は?
 本例の心電図診断は下記の如くです。   
 1) 正常洞調律   
 2) 左軸偏位   

 3) 左室肥大: R1+S3≧20mmの基準を満たしており、基礎疾患として高血圧があります。また、第1誘導、V5, 6でST低下があることも左室肥大があることを立証しています。

 4)冠不全:第1誘導、V5, 6にST低下所見が認められ3ます。しかし、肥大例におけるこのようなST低下を冠不全と呼ばず、左室過負荷(left ventricular strain)と呼ぶ場合 もあります。

5.本例の血管障害(脳卒中、心筋梗塞など)を起こす危険はどの程度と考えられる か?  
 この問題は、臨床的に大変重要な問題です。1999年にWHO(世界保健機構)およびISH(世界高血圧学会)が高血圧実地診療ガイドラインを発表し、この中で高血圧の程度と危険 因子の有無により、各高血圧例のリスク評価を行う方法を提案し、それに基づき、各 高血圧例が今後10年間以内に心・血管事故(脳卒中、心筋梗塞など)を発症する頻度の予測値について発表しました。  

 この問題についての詳細については、下のマークをクリックして下さい。本例は重症高血圧に属し、かつ標的臓器障害 (左室肥大)がありますから、今後10年間以内に脳卒中・心筋梗塞を発症するリスク は30%以上と推定され、極めて危険な状態であると考えられます。

 WHO/ISHによる高血圧診療ガイドライン(1999)

6.代表的な降圧剤の種類を上げよ。
 本年(2003)5月、「高血圧の予防、発見、診断、治療に関する米国合同委員会第7 次報告(JNC-7)」が報告されました。この米国合同委員会(JNC)はWHOと共に、世界で最も権威がある高血圧に関する委員会です。このJNC報告についても、上のマークをクリックして開くリンクに詳細に紹介しておきましたので、是非、御覧下さい。

 JNC-7においては、降圧薬としては、下記の6種類をそれぞれ適応に合わせて使用 することを推奨しています。
  1) 降圧利尿薬
  2) 交感神経β受容体遮断薬
  3) アンジオテンシン変換酵素阻害薬
  4) アンジオテンシン2拮抗薬
  5) カルシウム拮抗薬
  6) アルドステロン拮抗薬

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