発作性心頻拍

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1) 発作性心頻拍とは?
 発作性心頻拍とは、今まで一定のリズムで規則的に拍動を続けてきた心拍が、突然、頻脈となり、一定時間持続した後、突然もとのリズムにかえるような不整脈をいいます。すなわち、発作の開始および終了が非連続的なことが特徴です。それに対し、正常例で見る洞頻脈は運動、精神興奮などの誘因により、急に心拍数が増加しますが、原因の消退と共に心拍が正常化します。また、洞頻脈では心拍数は通常120/分前後までで、まれに150/分に達する事がありますが、発作性心頻拍の場合は、一般に心拍数が多く、通常、150/分以上に達します。しかし、例外も多く、心拍数のみで洞頻脈と発作性心頻拍とを区別することは出来ません。

2) 発作性心頻拍の分類と心電図所見 

分類 心電図的特徴
上室頻拍 変形したP波またはP波を伴わない幅が狭い
心室群が発作的に多数連続出現し(180/分
以上)、一定期間続いて後、突然停止する。
心室頻拍 変形した心室群が発作的に連続出現し、
一定期間続いた後(3個以上)、突然停止
する。P波は心室群と無関係に独自のリズム
で出現し、房室解離を示す。

以下に上室頻拍と心室頻拍の典型的心電図の実例を示す。

上室頻拍と心室頻拍

上は上室頻拍、下は心室頻拍。

3) 発作性上室頻拍(上室頻拍)

  1.上室頻拍の機序(成因)(下村、123例)

機序 例数
顕性WPW症候群 37 30.1
潜在性WPW症候群 46 37.4
房室結節リエントリー 32 26.0
洞結節内リエントリー 3.3
自動能亢進 3.3

(1) 顕性WPW症候群:標準誘導心電図がPR間隔短縮、QRS間隔延長などの典型的デルタ波の所見を示す例。
(2) 潜在性WPW症候群:発作性上室頻拍を示すが、標準誘導心電図はWPW症候群に典型的なデルタ波の所見を示さない。これは、副伝導路(Kent束)が一方向性伝導の性質を示し、心室→心房方向に興奮を伝えるが、心房→心室方向へは興奮を伝えないことにより起こる。
(3) リエントリー:
  興奮が下図のA部に達した際、この部が不応期にあると、興奮は多の道を通って再びA部に到達する。この時すでにA部が不応期から回復していると、興奮波はA部を通って最初の興奮が進んだ経路(矢印)に再進入(リエントリー)する。このようなリエントリーが房室結節内にある場合が房室結節内リエントリー、洞結節内にある場合が洞結節内リエントリーである。

 (4)上室頻拍時にみる諸種のリエントリー

リエントリの諸型

2.標準誘導心電図P波形とP波−QRS波の相互位置関係による上室頻拍機序の鑑別

 下図は、種々の上室頻拍の機序の相違による標準誘導心電図でのP波の位置とQRS波との相互位置関係を示します。このことは、逆にP波とQRS波との相互の位置関係により、ある程度、上室頻拍の機序を推定できる場合があることを示しています。下図の矢印はP波を示します。また、(  )内は、可能性はあるが、より頻度が少ないことを意味します。

洞リズム、諸種のリエントリ性頻拍時のP波形およびP波とQRS波との位置関係

3.上室頻拍の治療および発作予防

3−1 上室頻拍発作時の治療
 1)機械的迷走神経刺激法:迷走神経末端を刺激すると、反射性に心臓抑制神経が興奮し、頻拍が停止する。

頸動脈洞マッサージ 最初は右、無効の際は左を圧迫する。
両側同時圧迫はしない。
眼球圧迫(アシュナー操作) 最初は右、無効の際は左を圧迫する。
両側同時圧迫はしない。
ワルサルワ操作 声門を閉じて、息を呼出させる。
ミューラー操作 声門を閉じて、息を吸い込ませる。

 2)薬理学的迷走神経刺激法:ジギタリス薬静注(セジラニド0.4mg+糖液10ml緩徐に静注、無効なら2時間後に更に0.2mg追加静注。
 3)ATP静注:アデホス、トリノシン静注(5〜10mg、3秒以内に急速に静注)
 4)抗不整脈薬静注:心電図モニター下に実施する。

一般名 製剤名 包装 使用法
ベラパミル ワソラン 1管2ml、5mg 1回5mg、5分かけて静注
ジルチアゼム ヘルベッサー 1管10,50mg 1回10ないし20mg、3分で静注
プロカインアミド アミサリン 1管125,250mg 500〜1000mgを50〜100mg/分の速度で静注
ジソピラミド リスモダンP 1管5ml、50mg 1.5〜2mg/kg、5分かけて静注
シベンゾリン シベノール 1管5ml、70mg 1.5mg・kg、5分かけて静注

 5)抗不整脈薬経口単回投与法
 6)心房ペーシング
 7)直流ショック療法

3−2 上室頻拍発作予防
 1)カテーテル焼灼法(アブレーション)
  A.副伝導路が関与する回帰性頻拍:副伝導路の焼灼
  B.房室結節回帰性頻拍:房室結節二重経路のslow pathway焼灼
 2)カテーテル焼灼法の効果
   A.WPW症候群に対する効果と合併症(%)

/ NASPE研究 笠貫ら
効果 左室自由壁 91 98.4
中隔 87 86.7
右室自由壁 82 92.6
事故 合併症 2.1 7.0
死亡 0.2

(笠貫宏:不整脈.非薬物療法の現況と展望.Medical Practice 16(8):1238,1999)

  B. 房室結節回帰性頻拍に対する効果(slow pathwayへのablation)

成功率 91〜100%
房室ブロック出現率 0〜3%

 3)抗不整脈薬内服

一般名 製剤名 剤型 使用法
ベラパミル ワソラン 1錠40mg 120〜240mg/日、分3
フレカイニド タンボコール 1錠50,100mg 100〜200mg/日、分2
ピルジカニド サンリズム 1錠25,50mg 150mg/日、分3
プロパフェノン プロノン 1錠100,150mg 300mg/日、分3
ジソピラミド リスモダンR 1錠150mg 300mg/日、分2
シベンゾリン シベノール 1錠50,100mg 300〜450mg/日,分3
アプリンジン アスペノン 1錠10,20mg 40〜60mg/日、分2

4) 心室頻拍(ventricukar tachycardia, VT)

 1.心室頻拍の心電図所見の特徴
心室性期外収縮に似たQRS間隔が広い変形した心室群が3拍以上(6拍以上とする人もある)連続出現する。QRS間隔≧0.12秒、心拍数は通常140〜180/分であるが、<100/分の場合もある。房室解離を示し、P波はQRS波と無関係に独自のリズムを示すが、時に各QRS波の後に逆伝導性P波を認める場合もある。

 心室頻拍中に心房興奮が心室に伝導される場合がある(心室捕捉)。また、心室が洞興奮と心室頻拍の興奮の両者により興奮する場合があり(心室融合収縮)、このような所見を認めた場合は、心室頻拍を確診できる。

 心室頻拍に関連して次のような言葉が用いられるが、その定義は下記の如くである。

 1)持続性心室頻拍:心室頻拍が30秒以上持続するもの。
 2)非持続性心室頻拍:心室頻拍の持続が30秒以内のもの。
 3)反復性心室頻拍:心室頻拍が繰り返して出現するもの。
 
 4)単源性心室頻拍:心室群波形が同一のもの。
 5)多形性心室頻拍:心室群波形が多形性を示すもの。
 6)細動前駆型:心室群波形が不揃いで、心室細動の前駆所見と考えられるもの。
 7)chaotic heart action:細動前駆型とほぼ同義に用いられる。

 8)特発性心室細動:心臓に器質的基礎疾患がない心室頻拍で、著明な左軸偏位を示す右脚ブロック型波形を示し、Ca拮抗薬が著効を奏する場合が多い。

 9.Slow ventricular tachycardia (Accelerated idioventricukar rhythm):特発性心室自動とも呼ばれ、心室性補充収縮(心室固有調律)における心室頻度が60〜120/分に増加したもの(本来の心室固有調律は20〜30/分である)。

 10.不整脈源性右室異形成(arrhythmogenic right ventricukar dysplasia,ARVD): 右室に限局性の運動障害部位があり、この部の伝導遅延が原因で心室頻拍を生じる。発作時の心室は形は左脚ブロック型を示す。

 11.Torsade de pointes(トルサード・ド・ポアンツ):心室群は単相性で、QRS波とT波の区別を付け難い波が連続出現する。これらの波の振幅が漸次増大し、最大に達した後、漸次低くなり、遂には点状となり、再び振幅を増して同様の変化を繰り返す。この点状になったところは、他の誘導で見ると大きい振幅を示しており、このような波形変化は周期的なQRS軸の変化による。悪性で、心室頻拍、心室細動に移行しやすい。下図にTorsade de pointesの一例の心電図を示す。

Torsade de pointesの心電図

2.心室頻拍の基礎疾患
 心室頻拍は、上室頻拍と異なり、特発性心室頻拍を除いて、器質的基礎疾患を有する例が多い。一般的には心筋梗塞、虚血性心疾患、特発性心筋症、心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、高血圧、薬物中毒(ジギタリス、抗不整脈薬、向精神薬、エピネフリン)、電解質異常(低K血症、低Mg血症)、甲状腺中毒症、重症感染症などが原因となる。

3.心室頻拍の成立機序
 心室頻拍の成因としては、リエントリーと異所中枢機能亢進とがあり、ことに前者が重要な位置を占める。リエントリーにはマクロリエントリーとみくろりえんとりーとがあり、臨床的には後者が重要である。マクロリエントリーとは、脚や脚分枝をリエントリー回路に含むリエントリーである。ミクロリエントリーは、心筋梗塞部周辺などで生じる心筋内リエントリーなどが之に属する。リエントリー性心室頻拍は、心室早期刺激や心室高頻度刺激などにより誘発可能である。

4.心室頻拍の鑑別診断
 心室頻拍は幅が広い心室群が高頻度に連続出現するが、このような心電図所見は心室頻拍の他にも、心室内伝導障害を伴う上室性頻拍あるいは副伝導路を順方向(心房→心室)に伝わる房室回帰性頻拍の際にもみる。従って、QRS間隔が広い頻拍を認めても、直ちに「心室頻拍」と診断してはならない。このようなQRS間隔が広い頻拍は、一応、「wide QRS tachycardia」と診断し、次の3者を鑑別することが必要である。 

種類 頻度(%)
心室頻拍 81
心室内伝導障害を伴う上室頻拍 14
副伝導路順方向(心房→心室)に
伝わる房室回帰性頻拍

これらの3群のwide QRS tachycardaiaは下表により鑑別する。

項目 心室頻拍 上室頻拍+
脚ブロック
副伝導路を順方向に回る
房室回帰性頻拍*
房室解離 +(25〜50%)
心室捕捉
融合収縮
+(5%)
脚ブロック波形 非典型的 典型的 非典型的
concordance
QRS間隔 >140msec <140msec >140msec
QRS軸 高度の軸偏位
(northwest)
正常軸 軸偏位多し
ATPの効果
年齢 高年 若年 若年
基礎疾患 心筋梗塞、心筋症
病歴 心筋梗塞など 頻脈の反復 頻脈の反復

*:antidromic tachycardia, preexcited tachycardia

5. 心室頻拍の発作時治療
 1)抗不整脈薬療法

一般名 製剤名 剤形 使用法
リドカイン キシロカイン 1管5ml,100mg 1〜1.5mg/kgをbolus 静注
メキシレチン メキシチール 1管5ml,125mg 1.5mg/kgを5分かけて静注
アプリンジン アスペノン 1管5ml,50mg;
10ml,100mg
1〜1.5mg/kg、10分かけて静注
ジソピラミド リスモダンP 1管5ml、50mg 1〜1.5mg/kg、10分かけて静注
ベラパミル ワソラン 1管2ml,5mg 5〜10mgを5〜10分かけて静注

 2)直流通電:血行動態が悪い例んどには第1選択薬剤となる。
 3)心室ペーシング

6.発作予防

 1)薬物内服療法

一般名 製剤名 包装 使用法
メキシレチン メキシチール 1錠50,100mg 300〜600mg/日、分3
プロカインアミド アミサリン 1錠125,250mg 1〜1.5g/日、分3
ピルジカイニド サンリズム 1錠25,50mg 150mg/日、分3
フレカイニド タンボコール 1錠50,100mg 100〜200mg/日、分2
プロパフェノン プロノン 1錠100,250mg 300mg/日、分3
シベンゾリン シベノール 1錠50,100mg 300〜450mg/日、分3
アプリンジン アスペノン 1錠10,20mg 40〜60mg/日、分2
アジマリン アジマリン 1錠50mg 150〜300mg/日、分3
ジソピラミド リスモダンR 1錠150mg 300mg/日、分2
硫酸キニジン 硫酸キニジン 300〜800mg/日、分3
プロプラノロール インデラル 1錠10,20mg 30〜60mg/日、分3

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