2.6 QT延長症候群における負荷試験の意義

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 先天性QT延長症候群であっても、その浸透度が低いために、通常の状態で心電図を記録してもQTc間隔の延長を示さず、一見、正常心電図を示す例がある。しかし、このような例が激しい運動によりQT延長症候群に見る不整脈発作を起こし、突然死する場合がある。スポーツによる学童の突然死の中にこのような例が含まれている可能性がある。

 このような潜在的なQT延長症候群症例を顕性化することにより診断を確定し、正しい生活指導、治療などに役立てるためには運動負荷試験または薬物負荷試験が有用である。しかし、これらの負荷試験は、一方では危険な不整脈を誘発する可能性もあり、その実施に際しては、万一の場合に速やかに適切な処置がとれる態勢を整えた上で慎重に実施することが必要である。

 一般に、QT延長症候群における負荷試験の目的は次の2つである。
 1) 潜在性QT延長症候群の顕性化、
 2) QT延長症候群の遺伝子型の推定(LQT1, 2の鑑別)

1) 潜在性QT延長症候群の顕性化

 学童あるいはスポーツ選手の運動中の突然死を予防する目的で、一見、正常心電図を示す例に運動負荷試験を行い、QT間隔延長あるいはT波形の変化を顕性化し、QT延長症候群の診断に役立てる方法は古くから行われてきた。通常は運動中の心電図変化が重要であるが、時にはQT間隔延長がむしろ回復期に著明になる場合がある(Moss AJ, et al: Clinical aspects of the idiopathic long QT syndrome. Ed. Hashiba K et al: QT prolongation and ventricular arrythmias, NY Academy of Siences,1992)。

 薬物負荷試験としては、エピネフリン、イソプロテレノールなどのカテコールアミンが用いられる。下図は16歳女性の集団検診時の心電図である。QT間隔 0.44秒、RR間隔1.24秒、QTc 0.39で、QTc間隔の延長を認めない。この女性は、翌年、学校で授業中に失神発作を起こして急患として阿南医師会中央病院に移送された(阿南医師会中央病院 澤田誠三先生症例)。

集団検診時の心電図(16歳、女性)  16歳、女性
 集団検診時の心電図記録

 心拍数48/分の洞徐脈がある。
 QTc間隔は0.39秒と正常である。
 本例は、翌年、授業中に失神
 発作を起こして病院に急送された。
 T波形も正常である。

 入院後、本例にプロタノール(イソプレテレノール)負荷試験および塩酸エチレフリンI(エフォチール)負荷試験を実施した。
 下図は、塩酸イソプレナリン(イソプロテレノール)0.2mgの点滴静注(0.005mg/kg/分)を行った際の心電図の経時的変化を示す。  負荷前は心拍数34/分の洞徐脈を示す。負荷により心拍数の増加と共に著明なQT間隔延長、U波増高, T-U融合、T波の二峰化、QT間隔延長を示した。


イソプロテレノール負荷試験  上図と同一例:
 
 塩酸イソプレナリン負荷試験
 イソプロテレノール0.2mgの
 点滴静注負荷(0.005mg/kg/分)

 負荷前は心拍数34/分の洞徐脈を
 示す。負荷により心拍数の増加と
 共に著明なQT間隔延長、U波増高,
 T-U融合、T波変形(二峰性T波)、
 QT間隔延長を示す。

 下図は、入院中のモニター心電図である。モニター中に最上列に見るような著明な徐脈(33/分)を認めたため、エホチール(塩酸エチレフリン)5mgの静注を行った。第2列目は静注後23分の心電図である。心拍数の増加と共に、著明なQTc間隔延長、U波増高、T-U融合、二峰性T波などの所見を示した。この心電図は意図的に薬物負荷試験を行ったわけではなく、心拍数増加を目的として塩酸エチレフリン静注を行ったところ、図らずも交感神経刺激薬による薬物負荷試験を実施したのと同様の効果を認めた。

塩酸エチレフリン負荷試験
 上2図と同一例:経過中に著明な徐脈を示したため(A)、エホチール
 5mg静注を行ったところ、著明なQT間隔延長と共に、T波の著しい
 2峰化を認めた。

 下図は潜在性QT延長症候群に対するアドレナリン静注負荷時の心電図所見を示す(Shimizu W et al:JACC 2003:41;633-642)。エピネフリン負荷によりQT間隔が著明に延長すると共に心室性期外収縮、さらにtorsade de pointes(トルサード・ド・ポアンツ型心室頻拍)が誘発されている。

潜在性QT延長症候群に対するアドレナリン負荷試験

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