35.Brugada症候群(35)
Brugada型心電図を示す例に手交する説明文書

トップ頁へ Brugada症候群トップへ 遺伝性不整脈へ

  Brugada型心電図は、我が国では稀な心電図所見ではなく、検診や外来でしばしば遭遇する心電図所見です。Sakabeらは、健康な18歳以上の3,339例(男性2,646例、女性693例)の定期健康診断で10年間にわたり毎年心電図を記録して経過を観察し、全観察期間中に1度でもBrugada様心電図を示した例は合計69例(2.1%)で、男性67例、女性2例であったことを報告しています。

  Brugada症候群の予後については、最初、Brugadaらが本症候群について発表した当時は、失神発作などの病歴がない無症候群においても27.3%に不整脈などの心事故が起こると発表しました(Brugada J et al:Circulation 97:457,1998)。

 しかし、こんなに心事故が多くないことが多くの研究者により発表され、Brugadaら自身もその後の研究報告で無症状群における心事故の出現率は8.4%であると報告し、前の報告よりも心事故の出現率を著しく低く報告しています(Brugada J et al :Circulation 105:73,2002)

 Sakabeらは、上述した3,339例の10年間の経過観察において1度でもBrugada型心電図を示した69例において、10年間(中央値4年)にわたる経過観察期間中に、36歳、男性の1例のみが最初の検診受診の4年後に意識喪失発作を起こしましたが、その他の例には不整脈発作を起こした例は1例もなかったことを報告しています。この36歳の男性は、最初の発作の3年後に夜間の失神発作が反復出現するようになったため、入院の上、心臓電気生理学的検査を実施し、心室プログラム刺激により心室細動が誘発されたため植え込み式、除細動器(ICD)の植え込みが行われています。

 このようにBrugada 型心電図を示していても、何ら異常なく生活を続ける人が大部分ですが、不整脈事故を起こす人が皆無というわけでもありません。近年、Brugada症候群における病像形成や不整脈事故に関与する因子(修飾因子)がいろいろ明らかになってきました。欧州不整脈学会が発表したBrugada 症候群に関する第二次コンセンサス委員会報告では、Brugada症候群における心事故発症機序を下図の様に示しています。

Brugada症候群の心事故発生機序と修飾因子

 Brugada症候群において、重大な心事故の出現を予防するには、上表にしめされているような修飾因子を避けることが大切であると思います。

 さらに、Brugada症候群やBrugada型心電図という言葉自身が一般の方々には耳慣れない言葉ですから、Brugada型心電図を示す症例に対しては分かりやすい説明を印刷物として手交し、それに加えて口頭でも簡単に説明することが大切であると思います。その様な目的で、患者さんに手交するパンフレット原稿を下記に示します。印刷して自由に御使用下さい。

***********************************************************

ブルガダ型心電図とは?

 健康診断などの際、心電図所見として「ブルガダ型心電図」あるいは「ブルガダ症候群」という診断名がつくことがあります。聞き慣れない言葉ですので、その意味および生活上の注意について説明します。
 ブルガダというのは人の名前です。心電図に下図のBのような波形を示す場合があることは以前から知られていましたが、その意義は不明でした。

  1992年、ブルガダという研究者が、上図のBのような心電図所見を示す人の中に重い不整脈を起こす人がいることを初めて明らかにし、その後、この人の名前をとって、Bの様な心電図を示す場合、「ブルガダ症候群」と呼ぶようになりました。

 しかし、その後の研究で、ブルガダ型心電図には上図のB(coved型)とC(saddle-back型)の2種類があることが明らかになりました。B(coved型)は要注意ですが、C(saddle-back型)であれば失神などの自覚症状、急死の家族歴などがなければ、日常生活の2−3の注意事項を守れば心配いらないことも分かってきました。
 C(saddle-back型)のような心電図を示す人は、通常の心電図記録部位よりも高い部位で心電図を追加記録し、B(coved型)でないことを確認することが必要です。

 このような心電図を示す人は我が国では少なくなく、多くの人は全く健康で、不整脈発作を起こしていないことも明らかになってきました。徳島市役所の人間ドック健診受診者1000名中10名(1%)にこのような心電図が認められていますが、これらの 方々は不整脈発作も全くなく、極めて御元気に勤務されています。
**************************************************************
 しかし、ブルガダ型心電図(ブルガダ症候群)の方は次の諸点に留意して頂きたいと思います。
 1.家族(両親、兄弟など)に失神発作、急死などの人がいる方は必ず精密検査を受けて下さい〔徳島大学循環器内科、徳島赤十字病院、香川県立白鳥病院、徳島県立中央病院、国立循環器病センター(大阪吹田市)〕。
 2.今までに失神発作などがあった方も必ず精密検査を受けることが必要です。
 3.万一、失神発作が出現すれば、すぐに専門病院を受診してください。
**************************************************************
 家族歴がなく、失神発作を起こしたことがない方は、下記に注意して、1年に1度の心電図検査を受けて経過を観察して下さい。
  1) 日常生活は健康と考え、普通のように生活されて何ら差し支えありません。スポーツ、旅行、勤務などには何の制限もありません。
  2) 不整脈の治療薬には、悪い影響を与えるものがありますから、不整脈で病院にかかる際には循環器専門病院を受診し、「ブルガダ型心電図」と診断されたことがあることを担当医師に話して下さい。不整脈の治療薬(抗不整脈薬)の服用の際には慎重な経過観察が必要です。
  3)「うつ病」の治療薬(三環系抗うつ薬)も悪い影響がありますから、服用しないことが大切です。
  4)風邪、その他の原因で38〜39度度以上の高熱が出た際には、心電図検査などを受けてCの心電図がBに変化していないかを調べることが必要です。
  
 以上、ブルガダ症候群(ブルガダ型心電図)について簡単に説明しました。詳しいことをお知りになりたい方は下記のホームページを御覧下さい。
          http://www.udatsu.vs1.jp

  この頁の最初へ