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 心筋梗塞には多様な病型があり,常に典型的波形を示すわけではありませんから,特殊の病型についても理解しておくことが大切です。そのうち,いくつかの者について述べます。

1.右室梗塞

急性心筋梗塞,ことに下壁梗塞例の中に低血圧,低心拍出量を示すが,肺動脈楔入圧は正常で,右室圧・右房圧がこれをしのぎ、収縮性心膜炎に類似した血行動態lを示す病態があり,これが右室梗塞によることが明らかとなり,その血行動態および治療法の特異性から注目されるようになりました。

1)頻度

 剖検例で,急性心筋梗塞例の12〜43%に右室梗塞を合併するが,右室単独の梗塞例は著しく少なく,3.3%と報告されています(182例中6例)。

2)臨床的特徴

 1)臨床症状と理学的所見: 頸静脈怒張,Kussmaul徴候,四肢冷感,血圧低下などの右心不全所見を示します。kussmaul徴候というのは,怒張した頸静脈が深吸気により更に増強する所見をいいます。これは,正常例では吸気時に胸腔内圧が低下するために静脈圧が低下しますが,右室梗塞例では右室拡張不全による右室流入障害のために静脈圧が上昇するために出現します。
 2)胸部X線写真:肺鬱血はないか,あっても軽いことが特徴です。
 3)心電図
  通常,下壁梗塞を合併しますので,それに基づく所見があります(U,V,aVFのST上昇、異常Q波)。右室梗塞に特徴的所見は,右側胸部誘導(V1,V3R〜V6R)におけるST上昇です。ことにV4Rにおける1mm以上のST上昇は、感度70〜90%, 特異度91〜95%で,右室梗塞の診断に極めて重要です。しかし,このST上昇は発症10時間以内に不明瞭になります。V1におけるST上昇の右室梗塞診断における感度は10〜28%,特異度は87〜92%と報告されています。また,右室梗塞では,房室ブロックの合併が多く,その頻度は20〜30%と報告されています。

 下図に右室梗塞の心電図の一例を示します。
 心電図所見:U,V,aVF誘導の異常Q波,ST上昇は下壁梗塞の存在を示す。V6R〜V1の0.5〜1.0mmのST上昇は合併した右室梗塞の合併を示す。右室梗塞は,本例のように,(後)下壁梗塞に合併する場合が多い。


 4)血行動態
 スワン・ガンツ・カテーテルによる血行動態の変化を把握することは右室梗塞の診断に重要です。右室充満圧上昇,心拍出量低下,低血圧に加えて,右房圧波形でy谷下降が急峻になり,右室圧波形は図に示すような「dip and plateau」波形を示します。これらは「noncompliant pattern」と呼ばれ,右室コンプライアンス低下の表現です。Lopez-Sendonらは,下記の3項目を右室梗塞の診断基準に上げています。
   (1)右房圧≧10mmHg,
   (2)右房圧≧肺動脈肺動脈楔入圧
   (3)肺動脈圧よりも右房圧が低くとも,その差は1〜5mmHgである。
右室圧波形
右室圧波形は dip and plateau型を示す。

5)冠動脈造影:ほぼ全例で右冠動脈右室枝より近位部の閉塞を認める。下図に右室梗塞例の冠動脈造影の一例を示します。

左:右冠動脈近位部に完全閉塞を認める(三角矢印)。
B:左冠動脈:回旋枝に75%狭窄を認める(三角矢印)


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