10.家族性洞不全症候群
(familiar sick sinus syndrome)

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 洞不全症候群 (sick sinus syndrome, SSS) とは、洞結節の機能障害のために著しい洞徐脈、高度の洞不整脈、洞停止、洞房ブロック、発作性心房細動(粗動)、発作性心房頻拍などの徐脈性ないし頻脈性不整脈をおこす病態をいう。
 洞不全症候群における徐脈性不整脈と頻脈性不整脈との間には因果関係があり、両者が交互に反復出現す場合を徐脈-頻脈症候群 (bradycardia- tachycardia syndrome) と呼び、洞不全症候群の第V型に分類される。洞不全症候群の際には房室結節機能障害(自動能、伝導能の障害)を伴う場合が多く、両結節性疾患 (binodal disease) と呼ばれ、しばしばアダムス・ストークス症候群を合併し、 ペースメーカー植え込み療法を必要とする場合が多い。

 一般的な洞不全症候群についての紹介は、別の頁に詳細に紹介しているので、箇々では家族性(遺伝性)洞不全症候群のみについて述べる。

 洞不全症候群の中には、Brugada症候群やLenegre病のような遺伝性疾患症例に合併するれいがあrつことが知られていたが、その変異遺伝子の検討が進み、堀江は下表に示すように2種の遺伝子変異があることを紹介している。 

分類 染色体 責任遺伝子 障害部位と電流
SSS1 3p 21-p 23 SCN5A INa
SSS2 15q 24-q 25 HCN4 過分極誘発陽イオンチャネル
堀江稔:イオンチャネル病と心臓突然死、循環器科58(5):466-471,2005

 Grantらは、スポーツ参加のための健診で゙13歳、男児の心電図を記録し、QT間隔延長を認め(QTc=500msec)、心室群波形の特徴から先天性QT延長症候群3型(LQT3)と診断した。本例は無症状であったが、遺伝子解析の結果、その変異を認め、家族歴で剖検的に心臓に異常がない心臓突然死例を2例に認めたために詳細な家系調査を行った。下図はその家系図である。発端者(上記の例)はWー13である。

LQT3,Brugada、Lenegre、SSSを同一家系に認めた家系の家系図
↑:発端者、○女性、□男性。緑色:臨床dataなし。中央に黒点がある円、
四角:遺伝子変異例, 斜線:死亡例。SD: 突然死

Grant AO, et al:Long QT syndrome, Brugada syndrome, and conduction disease are linked
to a single sodium channel mutation. J Clin Invest 110:1201-1309(2002)から引用。

 上記の家系図の内、V-14およびW-3は、長い洞停止(sinus pause) を認め、著者らは指摘していないが、洞不全症候群の可能性が極めて高いと私は考えている。

 Vー14例は、発端者の父で、数回の意識喪失発作があり、QTc延長(480msc)を認め、意識喪失発作中に記録した心電図に第一度房室ブロックと長い洞停止が記録されている。下図はこの洞停止時の心電図記録である。

上の家系図中のV-14例の心電図
(Grant AO, et al:Long QT syndrome, Brugada syndrome, and
conduction disease are linked to a single sodium channel mutation. J
Clin Invest 110:1201-1309(2002)から引用)

 また、下図は上の家系図中の症例W-3の心電図で、長い洞停止が記録されている。本例の心電図所見としては第一度房室ブロック、完全右脚ブロックが認められている。本例はGrantによると、QT延長症候群、Lenegre病、Brugada症候群の合併例(いわゆるoverlap症候群)として記載されているが、私は洞不全症候群の合併もあると考えている。

上の家系図中の症例W-3の心電図
(Grant AO, et al:Long QT syndrome, Brugada syndrome,
and conduction disease are linked to a single sodium
channel mutation. J Clin Invest 110:1201-1309
(2002から引用)

 その他、洞不全症候群の家系内多発を認めていないが、Brugada症候群に合併した洞不全症候群症例が、それぞれ高木ら、鈴木らにより発表されている。

1)高木明彦、中沢潔ら:洞不全、心房粗動、心室細動、およびBrgada型心電図波形が姉妹に見られた若年突然死家系、Jpn J Electrocardiology 26-Supp.-4;S4-42-47,2006
2) 鈴木剛ら:徐脈頻脈症候群を伴う女性Brugada症候群の1例、Jpn J Electrocardiology 26-Supp.-4;S4-20-25,2006

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