症例7の解説

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 本例の心電図では、QRS間隔は0.14秒と拡大し、QRS軸は左軸偏位を示す。T,aVL,V6ではR波の頂点に結節があり、V5のQRS波は著しく分裂している。これらは完全左脚ブロックに著しく類似している。
 しかしながら、本例の心電図で最も注意すべき点は、V5,6でPR間隔が著しく短く、P波の終了後、直ちにQRS波が起始している所見である。この所見から本例はWPW症候群(B型)と診断される。

 WPW症候群の特徴的所見は、副伝導路(Kent束)を通って心室筋の一部の早期興奮(preexcitation)が起こり、これがデルタ波(delta wave)として表現される。デルタ波とは、P波の終了直後に、QRS波起始部が緩徐に立ち上がり、あたかも三角形状の小さい波がQRS波主部に附加されたような形態を示すために、そのように呼ばれている。すなわち、デルタ波はWPW症候群が、Kent束を通る興奮と正常房室伝導系(田原-ヒス系)を通る興奮との融合収縮であることの反映である。

 しかし、WPW症候群の際の心室興奮に占める正常房室伝導系を通る興奮と副伝導路を通る興奮との割合は症例により著しく異なる。下図は、正常、デルタ波を示すWPW症候群およびデルタ波を示さずにPR間隔短縮を示すWPW症候群における心室興奮様式を模型的に示す。

WPW症候群でデルタ波が明らかな場合と不明瞭場合の心室内興奮伝導様式
A:正常、B:デルタ波を示すWPW症候群、
C:デルタ波を示さないWPW症候群

 B図からも分かるように、心室筋の大部分が田原-ヒス系を通るインパルスにより興奮し、一部のみがKent束を通るインパルスにより興奮するとデルタ波が明らかに認められる。

 しかし、C図のように何らかの理由で、心室筋の興奮が副伝導路を通るインパルスのみにより興奮すると、融合収縮は極めて不完全となり、デルタ波は形成されず、脚ブロックに類似した心室群波形を示す(本例では左脚ブロックに類似)。

 また、PR間隔短縮が不明瞭な誘導部位もあり、WPW症候群の心電図診断の際には、デルタ波あるいはPR間隔短縮を示す誘導を注意深く探索しなければならない。もしこのような波形が少数の誘導のみに認められてもWPW症候群の診断を下すことは妥当なことである。

 診断:B型WPW症候群〔大部分の心室興奮が右房-右室間の副伝導路(Kent束)を通る刺激により行われている型)

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