症例1の解説

症例1へ 症例2へ
心電図目次へ

心電図所見

 PR間隔は0.33秒と著しく延長している(第1度房室ブロック)。最も特徴的な所見は、各誘導共にST間部(ST-gegment)が著しく短縮して、ほとんど認められないことである。この所見は「ST間部短縮によるQT間隔短縮」と表現され、高Ca血症の特徴的所見である。

解説

 本例の血清Ca値は15.4mg/dl(正常:9〜11)と著しく上昇していた。下図は胸部X線写真、頭蓋のX線写真および免疫電気泳動図である。

胸部X線写真 頭蓋の単純X線写真 免疫電気泳動図(上が患者)
胸部X線写真 頭蓋X線写真 免疫電気泳動図:上が患者、下は対照。

 胸部および頭蓋のX線写真では骨陰影が薄くなり、ことに頭蓋では丸い限局性の骨吸収領域が多数認められ、いわゆるpunched out lesionの所見を示す。

 本例では、「ST間部短縮によるQT間隔短縮」の所見から高Ca血症と診断される。その原因としては、punched out lesionの所見から見られるように多発性の骨破壊による骨Caの血中への流出が考えられる。このような多発性骨破壊の際には、多発性骨髄腫をまず考えねばならない。本症の診断には免疫電気泳動法が最も重要である。本例では、上の免疫電気泳動図に見るように、Ig-G(免疫グロブリンG)の単クローン性の増加が認められ、Ig-G骨髄腫と診断された。

 心電図上に認められた高Ca血症から、多発性骨髄腫診断のきっかけが得られた興味ある例である。

症例1解説endこの頁の最初へ