症例13の心電図 |
心電図所見:
正常洞調律で,QRS軸は著しい右軸偏位を示す。T,U,V4-6誘導で,P波の直後に緩徐に上昇するデルタ波を認める。デルタ波以後のQRS波は幅が狭く,急峻に描かれ、T,U誘導では深いS波,右側胸部誘導(V1,2)でが高いR波,V6誘導で深いS波を認める。T波はV1-3誘導で陰性ないしマイナス・プラス型の二相性を示す。すなわち,QRS波前半には明らかなデルタ波を認め,以後のQRS波は典型的な右室肥大心電図を示す。
部位 | 圧(mmHg) | 酸素飽和度(%) |
上大静脈 | - | 75.9 |
下大静脈 | - | 77.3 |
右房 | 4/1(2) | 72.2 |
右室(流入部) | 95/10 | 81.7 |
股動脈 | 65/50(53) | 78.5 |
大動脈 | 95/63(75) | 87.3 |
右室収縮期圧は大動脈圧と等しい。肺動脈内にはカテーテルを挿入する事が出来なかった。動脈血の酸素飽和度は低く,右→左短絡の存在を示す。右室流入部で酸素飽和度の上昇を認め,この部に短絡がある事が示された。これらの所見から,本例はファロー四徴症と考えられる。症例12に示したように,ファロー四徴症があっても,右室肥大の心電図所見が出現しない場合があるが,本例では右室肥大所見が認められる。
下図に正常,A型WPW症候群,A型WPW+右室肥大,B型WPW症候群,およびB型WPW+右室肥大の際の心室内興奮伝播過程を模型的に示す。
a:正常,b:A型WPW症候群,c:A型WPW+右室肥大、 d:B型WPW症候群,e:B型WPW+右室肥大 |
a.正常例:左室側心室中隔が先ず興奮し,これが右室側に伝わり、両心室の興奮はほぼ同時に終了する。
b. A型WPW症候群:副伝導路は左室基部にあり,左室心筋の一部は副伝導路を通る刺激により早期に興奮するが、残りの大部分の左室は通常のように房室結節→ヒス束を通留刺激により興奮し,心室融合収縮を作る。しかし,左室興奮に要する時間は,非WPW心拍の其れと変わらない。
すなわち,左室興奮は早期に開始するが,その興奮に要する時間は変わらないため,右室に比べて早期に興奮が終了する。このように,右室の興奮終了は,左室に比べて相対的に遅延するため,右脚ブロックに類似した心電図所見を示す。
c:A型WPW+右室肥大:右室興奮の終了はbに比べて更に遅延するため,QRS波終末部は右室興奮を反映し,T,V5,6で深いS波; aVRで大きいlate
R, V1,2でのS波の消失などの所見を認め,これらのQRS波後半の所見から合併した右室肥大を診断できる。
d.B型WPW症候群:副伝導路は右室基部にあり,右室心筋の一部は早期に興奮するが,残りの右室は正常房室伝導系を通る刺激により興奮する。この際,副伝導路を通る刺激により興奮する右室の範囲が狭く,心室融合収縮の程度が軽い場合には,右室興奮に要する時間は,非WPW心拍と同様である。
すなわち,右室は早期に興奮を開始するが,興奮終了に要する時間は非WPW心拍と変わらない。従って,B型WPW症候群では,相対的に左室興奮が遅延し,左脚ブロックに類似した波形を示す。
e.B型WPW+右室肥大:右室肥大のために右室興奮終了までの時間は延長するが,右室興奮は早期に開始するため,なお左室よりも早期に興奮が終了する。このように相対的に左室興奮が遅延するため,心電図は左脚ブロックに類似した所見を示し,合併した右室肥大は診断できない。
このように,B型WPW症候群では,右室肥大があっても,後者の診断は極めて困難であるが,A型WPW症候群の場合,ことに心室融合収縮が軽い場合には,合併した右室肥大を心電図により診断できる。