第9例 左室肥大

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第9例:
症例:48歳、男性
主訴:特記するべき事なし。
臨床的事項:身長 153.5cm, 体重 64kg, BMI  27.2  特に自覚症状はない。喫煙(−)、飲酒 2合/日。人間ドックを受診し、下記の検査所見を得た。 %肺活量 70%, GPT 44 IU/L,  γ-GTP 88 IU/L, 中性脂肪 163mg/dl, 腹部超音波検査で脂肪肝を認める。 下図は本例の心電図である。

解説:

上の心電図の所見は次の如くです。

1.正常洞調律
 心電図診断の際には、まずリズムを見ます。洞性P波があるかどうか? P波あるいはQRS波は規則的か?等に注意します。洞性P波とは、第1,第2誘導、V5, 6で陽性,  aVRで陰性のP波を洞性P波 (sinus P wave)といいます。P波の数が1分間に60以下であれば洞徐脈、60-100の間にあれば正常洞調律(ordinary sinus rhythm)といいます。

 normal sinus rhythmではない点に注意して下さい。心電図記録紙の小さい四角の目盛りが0.04秒、大きい四角の目盛りが0.2秒です。従って、大きい目盛り5つの間(1秒)に、P波がいくつ出現しているかを数えます。本例では1つですから洞頻度は、60/分以上ですから正常洞調律と診断します。

2.QRS軸
  リズムの診断の後にQRS軸を見ます。軸偏位は、通常、New York Heart  Association の基準に準拠して定めます。本例では第1誘導で(+)、第3誘導で(−)ですから、定義により左軸偏位と診断します。  P波についても第1誘導で陽性、第3誘導で陰性ですから、P軸も左軸偏位を示しています。

3)波形診断  
 ついで、P, QRS, T, Uの各波について、時間間隔、振幅、波形などについて観察します。本例では第1誘導のR波の振幅(R1)と第3誘導のS波の振幅(S3)の和が少し増大しています(R1+S3=11.0+7.5=18.5mm )。 左室肥大診断基準としては、R1+S3≧20mmの場合に左室肥大と診断します。本例はその基準を満たしておりません。

 従って、左室肥大の確定診断を下すことは困難ですが、肥満があるにもかかわらず(すなわち、心臓と胸壁との間の距離が遠いにもかかわらず)、このような基準値に近い高い振幅値を示しており、かつP軸が左軸偏位を示していること(左房負荷の場合に多い)などを考え合わせると、左室肥大の疑いを置くべきであると思います。今回の検査では血圧は正常でした。しかし、血圧は1回の測定のみでは正確に把握できません。経過を追って血圧を観察することが大切です。

本例の心電図診断:    
  1) 正常洞調律   
  2) 左軸偏位   
  3) 左室肥大の疑い

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