第11例 両結節性疾患
(洞房間および房室間Wenckebach周期)
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第11例:
症例:45歳、男性
主
臨床的事項:職場の人間ドック検診で不整脈を指摘されたが、自覚症状はない。
下図は本例の心電図である。
問題:
1.本例の心電図診断は?
2.本例に対し、今後の検査などを含めて、どのように対処するべきか?
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第11例解説:
この例は市内の人間ドック健診施設で「洞不整脈、第1度房室ブロッ ク」と診断されています。この診断は正しいでしょうか?
2) 次に注目するべき所見はPR間隔が漸次延長し、ついには心室収縮が脱落している所見です。この所見は「房室間Wenckebach周期(第2度第1型房室ブロック)に典型的です。この例では、洞房ブロックのためにP波が脱落しているために、この心室脱落所見が把握し難くなっています。このような場合に役立つのは、次の2所見です。
(1) PR間隔が漸次延長している。
(2) 長いRR間隔の後の心拍のPR間隔が、その前の心拍のPR間隔に比べて明らかに短縮している。これは、房室結節・ヒス束の興奮伝導が、長い心室休止期の後には回復するためです。
3) すなわち、本例は「第2度洞房ブロック第1型(洞房間Wenckebach周期)+ 第 2度房室ブロック(房室間Wenckebach周期)」と診断します。つまり、洞結節、房室 結節の両者に興奮伝導障害があるわけです。このような状態を「両結節性疾患 (binodal disease)」と呼び、洞結節、房室結節の両者に障害があることを意味しています。
4) 洞結節の機能障害を起こす病気を「洞不全症候群(sick sinus syndrome,
SSS) と呼びます。このSSSの分類には有名なRubenstein分類(下記)があります。
第1型:高度の洞徐脈、
第2型:洞房ブロック
第3型:徐脈-頻脈症候群
本例は第2型に相当しますので、洞不全症候群の可能性が濃厚です。従って、ホルター心電図検査と心臓電気生理学的検査(electrophysiological
study of the heart,
EPS)が必要です。その結果、洞結節の機能低下が分かれば「洞不全症候群」の診断は確定します。 そして、ホルター心電図で5秒以上の心停止があるか、意識消失発作(失神発作)があって、EPSで洞結節のある程度以上の機能低下が証明されれば、植えこみ型ペースメーカーによる治療が必要です。
5) 一般に、洞結節の興奮は体表面心電図には記録できません。従って、その結果と して出現した心房興奮(P波)で洞興奮を代表させます。つまり、P波の出現状況から 洞興奮の出現状況を推測するわけです。
6) 洞房ブロックの心電図診断
(1) 第1度洞房ブロック:
洞結節の興奮は体表面心電図には記録できないために診
断不能です(特殊の心臓内誘導電位図を取ると分かる場合があります)。
(2)第2度度洞房ブロック第T型 (洞房間 Wenckebach周期, Mobitz T型洞房ブロック)
洞房伝導時間が漸次延長し、ついにブロックし、以後は洞房伝導時間は短縮し、その後は再び洞房伝導時間の漸次延長を繰り返します。この際、洞房伝導時間の延長率は漸次減少するため、PP間隔が漸次 短縮し、洞房ブロックが起こった時点でPP間隔が突然延長し、以後、再びPP間隔が漸次短縮するリズムを繰り返します。このようなPP間隔の変化が出現する機序を下図のに相分析図として示します(単位:10msec)。
3) 第2度洞房ブロック第2型(Mobitz2型洞房ブロック)
洞房伝導時間が漸次延長することなく、突然、洞房伝導がブロックします。心電図では、PP間隔が突然2倍(整数倍)に延長します。しかし、心室収縮停止期間に補充収縮が出現すると、洞房ブロックか心停止かが分かり難くなります。心電図所見の出現機序を上図に示します。
4) 第3度洞房ブロック:
いわゆる心停止と区別がつきません。