アスリート心(運動家の心臓)
心電図による運動継続、競技参加の可否判断基準

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 激しい運動をするアスリート(athlete)が運動中(あるいは競技参加中)に急死する事故は、内外で多発している。このような事故の可能性を予知して,運動制限ないし競技参加の不許可などの適切な指導を行うことは臨床上 極めて大切なことである。この余蘊は目的でのスクリーニングに、問診、理学的検査、一般的なルーチン検査(尿、血液化学、胸部X線検査)に加えて、標準1212誘導心電図検査が廣く利用されている。

 しかし、この標準12誘導心電図で得られた所見を、アスリートの指導に具体的にどのように生かすかについては、未だ正しい知識が一般的は普及していないのが現状である。

 この点に就いて、欧州心臓学会が2010年に発表した「アスリートの標準誘導心電図所見の解釈について」という重要な勧告を行っている。この勧告は、アスリートの運動による心事故を予防するために,身体検査を行い、その際に記録された標準12誘導心電図をどのように役立てるべきであるかについての専門家の意見を集約した内容になっています(Corrado D et al:Eur Heartl J 2010;31:243) 。

l そのためには、まず そのアスリートの心電図異常所見が 下表のGroup 1にぞくするか、あるいはGroup 2に足するかを見る。

 

 次に、その例を下記の流れずに当てはめて、果たしてそのアスリートを競技に参加さてよりか、あるいはさらなる精密検査が必要かどうかを判断する。

 上記の方法で,ほとんどのアスリートで運動貨幣のスクリーニング検査を行えるが、ここの具体例の心電図所見について,どのように考えるべきかについて、上記の観光作成のディーシー風疹であるイタリーのCorrado教授が詳しく解説しているので,その総説に基づいて,ここの心電図異常の評価法について下記に紹介する。

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1) 洞徐脈、洞不整脈、補充収縮、補充調律
 これらの所見はアスリート心の15-70%に認められ、運動により消失する。アスリートにとっては生理的所見である。

2) 房室ブロック
 第1度房室ブロック、Wenckebachk周期はアスリート心の10-35%に認め,過呼吸、運動により消失し、生理的所見と考えられる。

3) QRS波の高電圧
 家族歴、既往歴、理学所見に異常がなければ、それ以上の検査をする必要はない。QRS波の高電圧のみであれば、スポーツに関連した生理的心筋のリモデリングの表現であると考える。

3) 不完全右脚ブロック
 下記の所見がある場合は不整脈原性右室心筋症を疑う。
  (1) V2を超えてV3,4まで広がる陰性T波
  (2) 左脚ブロック型心室性期外収縮
  (3) イプシロン波
  また第2音の固定性分裂を認める際には心房中隔欠損症を考える。

4) 早期再分極
 健康若年者での早期再分極波(J波)出現率は1-2%であるが、訓練さればアスリートでの出現率は50-80%と高率である。著明なST上昇(事に胸部誘導)も早期再分極所見の1つとして認められる。
 アスリートに見る右側胸部誘導におけるST上昇には下記の2型がある。
 a) 上方凸のST上昇を示し、陰性T波に終わる。この型ではBrugada型心電図との鑑別が問題となる場合がある。
 b) 上方凹のST上昇が、尖った高い陽性T波に終わる(この型は白人に多い)。 
 本例はa)のtypeのST上昇を示している。

  一般的にJ波およびST上昇度は同一人でも自律神経緊張度の変化により著しく変動する。このような現象をwaxing and warning (月の満ち欠け)と表現する。しかし、失神や心停止を伴う例では、心臓画像診断や心臓電気生理検査、Naチャネル遮断薬静注負荷試験などを必要とする例がある。

5) ST低下
 安静時心電図にST低下を認めた際には(陰性T波を伴う場合も、単独所見として認めた場合も)、直ちに更に詳しい検査を行う必要がある。

6) 右房拡大、右室肥大
 これらは運動による心筋リモデリングの表現と考えてはならない。詳細な検査が必要である。

7) 陰性T波
  最近の多数のアスリートの心電図についての研究によると、アスリートに見る陰性T波を、厳しい運動に基づく生理的変化であるとする従来の考え方は認められなくなっている。Sharamらは、訓練されたアスリートと運動しない一般人との間に陰性T波の出現率に差がないことを指摘している。またPelliciaらは、高度に訓練された10,045人のアスリートと32,652人のアマチュアアスリートにおける陰性T波の出現率を比較し、両群間に差がなかった。これらの研究成績は、厳しい運動が生理的適応現象として陰性T波を生じることはないことを示している。

 これらを総合的に判断し、隣接する2誘導ないしそれ以上の誘導で≧2mmの陰性T波を認める所見は、運動中に急死を起こすリスクを示す心臓血管系の警告的所見であると考えられる。従って、下方及び側方誘導で陰性T波を認めた際には、虚血性心疾患、心筋症、大動脈弁膜症、高血圧、左室緻密化障害などを鑑別する必要がある。

  右側胸部誘導における陰性T波についても、アスリートでV1を超えて陰性T波を見る頻度は著しく少なく、思春期以後のアスリートでの頻度は1.4%にすぎない。一見、健康そうに見えるアスリートでの陰性T波は、心臓イメージングで異常所見が出現する前段階の 基礎にある心筋症の身体的表現の初期症状である可能性がある。従って、画像診断で異常を認めなかったとしても、心筋疾患によるT波変化を除外できず、多年月後に心筋疾患が出現して、結局は不良な転帰を示す場合があることに留意する必要がある。

 2個ないしそれ以上の誘導での≧2mmの陰性T波は、健康なアスリートでは極めて稀な事象であるが、心筋症では普遍的なサインの1つである。従ってこのような場合には、心臓病の遺伝的疾患についての詳細な検討(家族・第1親等などの循環器学的スクリーニング検査、できれば遺伝学的検討)により、器質的疾患が除外された時にのみ受け入れられる。

 最近の研究によると、訓練されたアスリートで陰性T波を認めた際には、その時点で精査して器質的心疾患が認められなくとも、経時的に心電図及び心エコー図で観察することが必要である。

  2個以上の誘導(ほとんどの場合下壁a/o 側壁)での扁平ないし軽度のST低下(<2mm)を認めた際の臨床的意義は未だ明らかでない。これらの変化は通常、運動負荷により正常化し、迷走神経緊張増加による良性の心電図変化と考えられている。しかし、このような所見は健康なアスリートで0.5%程度の頻度でしか認められない稀な所見であり、他方、心筋症では普遍的に見る所見であるあから、注意深い検討と経過観察が必要である。

8) 完全右脚ブロック、左脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック
 これらの所見をアスリートに見る頻度は<2%であるが、器質的ないし遺伝的疾患では普遍的に出現する所見であるから、運動負荷試験、ホルター心電図、心臓画像診断を含む循環器系の精密検査を実施しなければならない。両脚ブロックはLenégre病である可能性があるため、その除外のために両親、兄弟の心電図を記録する必要がある。

9) 非特異的心室内興奮伝導障害
  非特異的心室内興奮伝導障害とは、完全右脚ブロックや完全左脚ブロックの診断基準を満たさない、QRS間隔>110msecの場合をいう。この所見は心臓刺激伝導系の障害でなく、固有心筋の障害を反映している。例えば、不整脈原性右室心筋症が基礎疾患として存在し、そのために右側胸部誘導でのQRS間隔延長を示し、しばしばイプシロン波(ε波)を伴う。

10) QT間隔延長
 QT間隔延長を起こす基礎疾患が明らかでない例での≧500msecのQTc間隔延長は、先天性QT延長症候群の確実な証拠である。<500msecの境界値を示す例では、家族歴、ホルター心電図、運動負荷試験、エピネフリン負荷試験、遺伝学的検討などのさらなる検討が必要である。

11) Brugada症候群
 アスリートでは、しあばしばV1,2でST上昇を伴い、Brugada心電図との鑑別が問題になるが、Brugada型心電図(coved型)では、STJ/ST80>1の所見に着目すれば両者の鑑別は可能である
(添付file)。STJ,ST80とは、J点およびJ点から80mssecの時点におけるST上昇の程度で、STJ/ST80  >1であることは。ST部が急峻に低下している所見、すなわちcoved型ST上昇所見を示しており、Brugada型心電図(coved型)であることを示す所見である。

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