単一遺伝子変異を持つ同一家系にBrugada症候群とLenegre病の多発を認めた1家系
(Kyndt F et al:Circulation 104:3081-86,2001)

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 総計71名からなるフランス人の大家系にBrugada症候群または進行性伝導障害(isolated proressive cardaiac conduction defect, ICCD, Lenegre病)の多発を認めた。

 下図は、この家系中45名についての家系図である。

4372の部位におけるG-T変異carrierは+とマークした。PM: ペースメーカー植え込み、、
ICD:植え込み型除細動器植え込み

発端者(U-11)は、反復する動悸と眩暈(めまい)のため来診した例である。家族歴として2人の叔父がそれぞれ44歳、56歳時に急死している。本例の心電図を下図に示す。典型的なBrugada型心電図(coved型)を示し、同時にPR間隔延長(0.284秒)とヒス束電位図におけるHV時間の軽度延長(73msec)を示した。本例は心臓電気生理学的検査の際に実施した単一の心室早期刺激で多形性心室頻拍が誘発されたために植え込み式除細動器(ICD)が植え込まれた。


発端者(2-11)の心電図。V2で典型的なST上昇を示し
,coved型Brugada心電図と診断される。

 発端者の息子の1人(V-18)も無症状例であったが、coved型のBrugada心電図を示した。他の1人(V-19)は正常心電図を示した。

 発端者の兄弟の1人(U-15)、およびその息子の内の1人(V-24)も典型的なBrugada型心電図を示した。U-15ではHV時間は80msecと延長し、心室刺激により持続的な心室頻拍が誘発された。

 発端者(V-18)の3人の姉妹(U-1, U-3、U-6)は何れも第1度房室ブロック a/o 心室内伝導障害を示したが、Brugada 型心電図所見は認めなかった。さらに彼女らの血統の内4はICCDに罹患していることが分かった(何れも無症状)。その心電図所見は下表の如くである。これらの所見の内、側壁ブロック(parietal block)とは、QRS間隔の病的延長を示すが、右脚ブロックないし左脚ブロックの典型的所見を示さない例をいう。

心電図所見 例数
PR間隔延長
完全右脚ブロック
左脚前枝ブロック
側壁ブロック

  これらの内、V-4例(43歳)は家族検診時にPR間隔延長(274msc)と完全右脚ブロックを認めたが、ST上昇所見はなかった。6か月後に失神発作を起こしたため心臓電気生理学的諸検査を行い、HV時間延長(80msec)を認めたが、心室プログラム刺激による心室頻拍の誘発は不能であった。本例はペースメーカー植え込みを実施し、それ以後は無症状に経過している。下図に本例の心電図を示す。

V-4の心電図。PR間隔延長(274ms)
と完全右脚ブロック所見を示す

 症例V-3は第1度房室ブロックと左脚前枝ブロックを示した。本例にフレカイニド静注負荷試験を行ったところ、Brugada型心電図は誘発されず、心室内伝導障害所見は下表に示すように強調されたが、心室プログラム刺激伝は心室性不整脈は誘発できなかった。同様のテストをV-9およびV-11にも実施し、下表に示すように同様の成績を得た(前後はフレカイニド静注負荷前・後)。

心電図指標
(msec)
症例V-3 症例V-9 症例V-11
PR間隔 206 230 202 244 208 222
QRS間隔 100 150 120 186 108 136
H-V時間 72 104 / / / /

下図は、V-11における安静時心電図およびフレカイニド静注負荷後の心電図である。フレカイニド静注負荷により心室内伝導障害所見は増強したが、ST上昇は認められていない。

V-11におけるフレカイニド静注負荷前後の心電図負荷後に著明
なQRS間隔延長を認めるが、ST上昇は認められない。

 本家系において、Brugada型、ないしICCD型心電図を示した群と、これらの波形を示さず、かつ遺伝子変異を示さなかった群におけるPR間隔、QRS間隔および心拍数を調査し、下表のような成績を示している。PR間隔、QRS間隔はBrugada型、ICCD型ともにnoncarrier群に比べて有意に延長している。心拍数はBrugada型において有意に他の2群より少ない。

対象 PR間隔
(msec)
QRS間隔
(msec)
心拍数
(/分)
Brugada型 256±36 120±18 64±5
ICCD型 212±35 133±18 71±3
non-carrier 164±21 94±10 74±2

 本研究の最も重要な研究成果は, SCN5Aの単一変異がある例ではBrugada型、他の例ではICCD型のphenotype(表現型)を示した。そして、同一家系内においても、同じ血統に属する家族例には同一表現型が認められたことは興味深い。

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