健診で早期再分極を認めた際の対応

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1.正常例における早期再分極の頻度
  早期再分極は、特発性心室細動と密接な関連がある重要な所見ではあるが、正常者でも下記のようにかなりの頻度で認められる所見であるため、この所見を認めたからと言って、失神病歴や空士家族歴がない被検者に過度の不安を与えるような説明を決してして行ってはならない。諸家による正常例における早期再分極の頻度は下表の如くである。

著者 対象数 早期再分極
例数
Nau 2,395 79 3.3
Hissaguerreら 412 21 5.1
Rossoら 何らかのJ波 124 16 12.9
≧1mmのJ波 124 11 8.9

2.健診、スクリーニング検査などで早期再分極を認めた際の臨床的意義
  Rossoら(2008)は、早期再分極が特発性心室細動の発症と密接な関連があるとしても、特発性心室細動そのものが非常に頻度が少ない疾患であり、かつ早期再分極が上表のように日常臨床において普遍的にみるしんでんずしょけんであるために、病的意義がある所見である場合は,Baysていりに基づいて極めて少ないと考えられ、失神病歴がなく、また急死家族歴がないような人々に早期再分極所見を認めたからと行って、重大な疾患であるかのような説明をして、被検者に過度の不安を与えることはさけるべきことを指摘している。

 特発性心室細動の好発年齢は35-45歳の男性であるが、この年齢層の男性における一般人口での特発性心室細動の発症率は人口10万人当たり3.4名と報告されている(Zheng Z et al:Circulation
104:2158-2163,2001)。

 何れかの誘導でのJ点上昇出現率は、特発性心室細動では42%、正常群では13%である(Rosso R et al:HACC 52(15);1231-1238,2008)。すなわち、特発性心室細動では正常群よりもJ波出現率が3.23倍ほど高い。

 J波(+)群が特発性心室細動を起こす率は3.4人×3.23=11人/100.000人である。
 健診、スクリーニング検査でJ波を認めても、特発性心室細動出現のオッズ比を考慮すると、J波検出例が将来、特発性心室細動を起こす率はおおまかに10,000人に1人と推定され、差し迫った高リスク指標として被検者に説明するべきではない。

 失神病歴例でも大多数は特発性心室細動でない場合が多い。心停止、記録された心室頻拍/心室細動がない例での心臓電気生理学的検査による心室細動誘発の臨床的評価は一定でないため、失神を有する見掛け上健康な対象では、J点上昇のみに基づいて心臓電気生理学的検査の適応をさだめるべきではない。

3. 検診で早期再分極と診断した際に患者に手交する説明文書

 検診などで、心電図に早期再分極を認めた際には、上記のような説明を行い、不必要な不安に陥らないように懇切な説明を行うことが必要であるが、口答での説明に加えて、簡単な文書でかい多setsめいしょを手交すると、患者の不安を和らげると共に、疾患への理解を深める効果が期待される。

     患者に手交する「早期再分極」の説明書へのリンク

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