Brugada症候群 (37) 

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Brugada症候群の男性優位発現の機序

 Brugada症候群は男性に多く、欧米の報告では全症例の72〜76%を男性が占めています。我が国における厚生労働省委託研究においては、有症候群での男女比は96.5、無症候群では93.7と報告されており、圧倒的に男性に多いことが指摘されています。

 Brugada症候群が男性に多い機序としては、次のような事項が上げられています。
 (1 Brugada症候群の男性では、年齢を一致させた対照男性群よりも血中テストステロン濃度が高い。
 (2)テストステロンには下記のような薬理作用がある。
   (i) K+電流(Iks, Ikr, Ik1)を増大する。
   (ii) ICa++電流を減少させる。
 (3) 右室心外膜細胞のIto密度とそれによる活動電位第1相のノッチは、雄犬の方が雌犬よりも大きい。

 Shimizuらは、Brugada症候群の男性48例と年齢を対応させた対照男性群96例でテストステロンその他の諸種ホルモンの血中濃度を測定しています。下表は両群における血中テストステロン値とBMI(body mass index, 体格指数)および体脂肪率を示します。Brugada症候群における血中テストステロン値は631±176ng/dlで、対照群(537±158ng/dl)に比べて有意に高い値を示していました(p<0.0015)。estradiol、DHEA-S(dihydroepiandrosterone sulfate), LH, FSH, T3, T4, TSHなども測定していますが、これらについては両群間に差を認めていません。

/ Brugada症候群 対照群 p値
例数 48 96 /
年齢年齢(歳) 51±11 age-matched ns
テストステロン濃度
(ng/dl)
631±176 537±158 <0.0015
BMI(kg/m2) 22.1±2.9 24.6±2.6 <0.0001
体脂肪率(%) 19.6±4.6 23.1±4.7 <0.0001

  テストステロンには内臓脂肪減少作用がありますが、実際、Brugada症候群を有する男性では、対照男性に比べてBMIおよび体脂肪率が有意に小さい値を示しています。

 Brugada症候群(Brugada型心電図)に及ぼす男性ホルモンの影響に関し、Matsuoらは興味ある症例を報告しています。Matsuoらは長期にわたり心電図的に経過観察中の患者が前立腺癌にかかり、治療のために除睾手術を受けた2例の心電図について報告しています。 何れの例においても除睾術後には術前に比べてBrugda型心電図の軽快(正常方向への変化)を認めており、右側胸部誘導のST上昇度も有意に低下しました。

 以下、Matsuoらの報告例の第2例を紹介します。本例は1960年、57歳時に最初の心電図を記録し、典型的なBrugada型心電図を認めました(V1はcoved型、V2はsaddle-back型)。毎年、心電図を記録して経過を観察していますが、この所見は1980年まで恒常的に認められていました。1981年に前立腺癌が発見され、除睾手術を受けましたが、それ以後はこの所見は認められなくなっています。
 下表5本例における除睾術を受ける前後のV1,2におけるST上昇度の平均値と標準偏差を示します。除睾術後には術前に比べてV1,2のST上昇度は有意に低下しています。 

/ 除睾術以前 除睾術以後
第1例 V1 0.14±0.03(0.10-08) 0.01±0.03(0-0.05)
V2 0.16±0.03(0.10-0.20) 0.03±0.03(0-0.05)
第2例 V1 0.14±0.04(0.10-0.20) 0.07±0.03(0.05-0.10)
V2 0.42±0.12(0.20-0.55) 0.12±0.03(0.10-0.15)

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