第1122例 洞結節内ペースメーカー移動、左室肥大・過負荷

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第1122例
症例:87歳、男性
主訴:動悸
臨床的事項:胸苦しい感じを主訴として近医を受診し、徐脈性不整脈と診断されて経過観察中である。本日、昼頃から胸が苦しくなり,安静を保ったが症状が持続したため、鎮静剤を内服し、それを契機に症状が軽快し, 受診時には症状は落ち着いていた。
 来院時現症では、理学的所見は正常、血圧108/76mmHg,、担当医は心電図を記録し,下図に示すような不整脈と標準12誘導心電図波形が記録された。
 担当医はこの心電図に対し,下記の如く診断している。
 1) 洞リズム
 2) 房室ブロック
 3) ST変化なし、
 このような心電図所見にもとづいて、外来担当医はカルテに下記のように総括している。
 担当医総括:症状も軽快しており,心電図上の変化はない。帰宅して経過を観察していただくこととする。
 この外来担当医の心電図診断は妥当であるか?

標準標準肢誘導心電図

標準12誘導心電図

解説
 下図に本例の標準肢誘導のlong-strip記録および標準12誘導心電図の解説図を示します。まず標準肢誘導心電図について解説します。

 外来担当医は,この不整脈に対して「房室ブロック有り、ST変化なし」と記載しています。各心拍に番号を付けてありますが、心拍1-6, 10-11ではPR間隔0.28秒と延長し, 第1度房室ブロックが認められます。第7-9心拍では、各誘導ともP波が著しく平低になっていますが、第10,11心拍のP波は再び第1-6心拍と同じ波形に復しています。このP波が平定化した第7-9心拍ではPP間隔が延長していますが、逆伝導性P波は出現していません。このような状態は「洞結節内移動性ペースメーカー」と診断されます。ペースメーカー移動が,房室結節にまで及ぶと,第2,3,aVF誘導のP波が陰性化しますが(逆伝導性P波)、本例ではそこまでの変化は認められません。従って、この心電図は,「第1度房室ブロック、洞結節内ペースメーカー移動」と診断されます。

  下図に標準12誘導心電図の解説図を示します。基本リズムはPP間隔0.76秒(心拍数79/分)の正常洞調律で、P波形は正常ですが、PR間隔は0.32秒と延長し,第1度房室ブロックの所見を示しています。QRS軸は正常軸です。QRS波の振幅についてみますと、SV3+RaVL=23 mmで、Cornell voltageの左室肥大診断基準の境界値を示しています(左室肥大疑)。

 またV5,6のST部はやや斜め下方に軽度の低下を示しています。V4-6の第2心拍では、ST部は軽度の下降性低下を示し、かつV4の第2心拍のU波は-/+型の2相性所見を示しています(左室過負荷疑)。このような際には,確認のために胸部誘導心電図の再記録が必要です。

   以上から,本例の心電図診断は下記のようになります。
 1) 洞結節内ペースメーカー移動
 2) 第1度房室ブロック
 3) 左室肥大(疑)
 4) 左室過負荷(疑)
 5) 心電図記録では計の恒常性確認のために胸部誘導心電図の再記録が必要

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