第1121例 間欠的完全左脚ブロック(頻脈依存性)

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 今回は心電図のみの提示です。下に示すAおよびBの2枚の心電図の診断は?
 

解説
 下図に本例の心電図の解説図を示します。A図の標準12誘導心電図記録では,リズムは洞調律で、QRS間隔は0.10~0.11秒と軽度の拡大傾向を認めます。QRS軸は正常軸で、V1-4のr波の振幅が著しく低く、V6にq波がありません(正常初期中隔ベクトルの欠如)。V1-4でT波の軽度の終末陰性化を認めます。V1-4 のS波の振幅は著しく大きく、左室肥大があります。

 不完全右脚ブロックは,日常臨床でしばしば遭遇しますが、不完全左脚ブロックの診断はあまりされることがありません。これはその出現頻度が少ないことが主要な原因ですが、診断基準が未だ普及していないことも関係していると思います。

 不完全左脚ブロックの診断基準については、いろんな研究者が種々の診断基準を提唱していますが、現在、最も信頼性が高いのは、2009年にAHA/ACCF/HRS(米国心臓協会、米国心臓学会財団、不整脈協会)の3学会が共同提案した下記の診断基準です(下表)。

 1) QRS間隔の軽度延長(下記基準を満たす)
  1) 成人:110-119msec
  2) 8-16歳90-100msec
  3) <8歳:80-90msec
 2) 左室肥大の心電図波形の存在
 3) V4-6でR peak time>60msec
 4) 第1誘導、5,6にq波がない。

   R peak timeというのは、QRS波起始部からR波の頂点までの時間です。本例はこれらの基準を全て満たしており、不完全左脚ブロックと診断されます。

  B図の心電図は同一例のV6の連続記録です。最初の2心拍ではQRS間隔が0.19秒と著明に延長し、QRS波の頂点の近くに結節形成を認めます。従ってここの2心拍は完全左脚ブロック波形と診断されます。これに続く4心拍の心電図波形はA図のV6の波形と動揺で,不完全さ脚ブロック波形を示しています。

 すなわち本例は間欠的完全左脚ブロック例です。左脚ブロックは右脚ブロックと異なり、器質的疾患が背景にある場合が多いので、その点について臨床的精査が必要です。

心電図診断:間欠的完全左脚ブロック、不完全左脚ブロック

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